怪談CHU!



「俺が家に帰る前日。親父は出張で家にいなくて、お袋は同窓会で地元に帰ってて、家には姉貴1人だったんだ。
 姉貴はしっかり者だし神経図太いから、別に家に1人って状況も恐くもなんともなかったんだ。
 自由を満喫して、普段なら親に怒られるような夜中まで起きてたんだ。その状況を楽しもうと思って、
 わざわざホラー映画まで借りてくる始末」
 皆、俺の姉貴の実体験ってせいか真剣に話を聞いてるな。
「自室で観てたホラー映画のビデオも終わって、気付いたら夜中の2時半近くになってたんだ。
 さすがの姉貴もそろそろ寝ようかと思って、テレビや電気を全部消して、ベッドに入ろうとしたんだ。
 すると、だ。階段の方から、足音が聞こえてきたんだ。
 最初、姉貴は泥棒かと思って、電気を消したまま近くにあった花瓶を手に取った。
 足音は階段を登ると、姉貴の隣の部屋。つまり、俺の部屋に入っていったんだ。
 そして、夜中だっていうのに大声で叫んだ。
 『いないっ!』
 と同時に、窓の外がカッと光る。そして数瞬後、落雷の轟音が鳴り響いた。
 最高のタイミングで落ちてくれたおかげで、美月が女の子らしく「キャッ」と声を上げた。
「その瞬間、姉貴は悟った。泥棒ならそんな風に叫んだりしないから、相手は泥棒なんかじゃないって。
 足音は俺の部屋から出て、姉貴の部屋に向かってきた。
 姉貴は花瓶を掴んだまま、慌ててクローゼットの中に隠れた。
 姉貴が隠れた瞬間、部屋のドアが開いた。
 低い男の声が、言ったんだ。
『ここかあ〜』ってな。
 クローゼットの隙間から姉貴は見てたんだけど、暗かったし距離もあったから、相手の顔は解らなかった。
 男はベッドまで行くと布団を引き剥がし、忌々しそうに舌打ちをした。
『いない…』
 そいつは部屋をグルグルと歩き回り、クローゼットの前を通りかかったんだ。
 その時、姉貴はそいつを見た。
 その男は全身血まみれで、頭の半分の皮が無かったらしい。
 姉貴は思わず息を呑んで――」
 全員かどうかは解らないが、何人かは息を呑んだ。
 NANAの瞳からも、すでに好奇の輝きは消えている。
「つい、声を上げちまったらしい。
 男は姉貴の声に気付き、クローゼットを勢い良く開けた。
 姉貴を見つけ、男はニヤリと笑って、言った。
 『見つけた』
 姉貴が恐怖のあまり、手に持っていた花瓶を相手の顔に投げつけた。
 花瓶はそいつの頭に当たり、音を立てて割れた。
 するとどうだ、男は花瓶に入っていた水を頭から浴びて苦しみだしたんだ。
 水がどうとか、溺れるとか、そんな事を口走っていたらしい。
 男は部屋の窓まで行き、そこから庭に飛び降りたんだ。
 姉貴は慌てて窓の外を見下ろしたが、そこには誰もいなかった。
 その男が、地面に叩きつけられた音もなかったんだ。
 その時になって、姉貴はやっとその男の事を思い出した。
 その日、姉貴はクラスメイトからある怪談話を聞いてたんだ。
 ある人が車を運転していると、誤って1人の男性を轢いてしまった。
 その男はまだ息があったのに、気が動転したドライバーはその男を近くの川に投げ捨てたんだ。
 その次の日、ドライバーは自分の家のベッドで、何者かに首を絞められて殺されていたんだ」





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