いざ、禁断の領域へ…

今回の話は、七海ちゃん&七瀬くんが普通に鷹宰に通っているという
設定のもとで話が進んでいるので、その辺はご了承ください。
後…冒頭はちとやばい雰囲気ですが、大丈夫ですので…
一応最後まで読んでもらえるとありがたいですw





「いざ、禁断の領域へ…」







屋上へと続く階段の踊り場。
滅多に誰も近寄らないこの場所で、
俺は七瀬を壁に押し倒すようにしてその顔を覗き込んでいる。
「…慎吾…くん?」
「七瀬…。」
静まり返った踊り場に、俺たち2人の息遣いだけが聞こえる。
本当は俺の心臓はドンドン高鳴ってきてるってのに、
その音は当然ながら全然聞こえてこない。
「どうしたの?」
七瀬は、これから何が起こるかも知らず、
俺の鼓動の高鳴りにも気づかず、
不思議そうな顔で俺を見上げてくる。
こういう何気ない仕草でさえ、
最近ではやけに可愛く見えてしょうがない。
「いや、なんでもないよ。」
そう言いながら、俺はその柔らかなキメの細かい頬にソッと両手をあてがう。
入学当初から、俺になついていた七瀬。
初めは可愛い弟みたいな感じだったのに。
いつからか、俺はこいつのことが──。
「ねぇ、どうしたの?なんだか今日は様子が変だよ。」
「…もう、我慢できないんだ。」
ゆっくりと自分の顔を、七瀬の顔へと近づけていく。
「えっ…ンッ。」
優しく触れた七瀬の唇は小さく、柔らかく、とても温かい。
「ンンッ…。」
七瀬は一瞬戸惑ったものの、抵抗するそぶりは見せない。
俺は頬から手を離し、
そのまま華奢な肩を自分の方へと引き寄せ、
その小さく滑らかな背中へと手を回す。
「ンッ…ン…。」
体が熱くなってくる…。
誰かに見られたらどうしようとか、
そういう不安や緊張があるからかもしれない。
でも、一番強い感情はそういった類のものじゃない。
「ン…七瀬…。」
ゆっくりと七瀬から離れ、
その顔をジッと上から見下ろす。
七瀬の瞳は涙で潤み、頬は真っ赤になっている。
「七瀬…俺、ずっと前からお前だけを見てたんだぞ。」
俺は七瀬の学ランのファスナーに手をかけ、
ゆっくりと下ろしていく。
「し、慎吾くん…?」
ファスナーを途中まで下ろし、
今度はシャツのボタンをゆっくりとはずしていく。
すると、七瀬の綺麗な肌が見えてきた。
「七瀬、綺麗だな…女の子みたいだぞ。」
そう言いながら、俺は七瀬のシャツの中へと手を伸ばし──





「ってなんじゃこりゃあ!!」
「キャッ!!」
俺は、この後の展開を読むのが怖くなって、
持っていた冊子を床に力の限り叩きつける。
「もうっ、急に大声上げないで頂戴。」
目の前では、澪ちゃんが頬を膨らませて俺を睨みつけている。
が、いきなりこんな小説を読まされては
誰だって怒鳴りたくなるだろう。
「ハァ、ハァ…なんてふざけた小説だ。これが噂の『ボーイズラヴ』とかいうヤツか?」
「え、ええ…どうだった?」
誰もいない、放課後の図書室。
こんな神聖な場所で、なぜ俺がこんな小説を…。
「どうだったもなにも…七瀬が読んだら、たぶん泣くぞ。」
「そ、そう?」
「…ってか、なんでこんなの書く気になったんだよ!
しかもよりによって『俺視点』だし!!
セリフも何か気持ち悪いし!!」
「ん…。」
俺が怒鳴ったのがきいたのか、澪ちゃんはすっかり落ち込んでしまった。
女の子に怒鳴り散らすなんて、俺もまだまだ修行が足りないか…。
「えっと、ごめん、急に怒鳴っちゃって。
でもさ、いきなりこんなの読まされても俺だってどうしていいか…。
まさか、澪ちゃんがこういうのに興味あったなんて知らなかったしさ。」
「ちょっ…ち、違うわよ!!
私は別にこういう話に興味はないわ。」
俺に誤解されたのが嫌なのか、澪ちゃんがムキになって
首を横に振っている。
何かこういうのって新鮮でいいなぁ…。
「わかったわ、誤解されたままっていうのもちょっとアレだし。
きちんと説明しておくわ。」





「えっと…佐伯さんって知ってるわよね?」
「ああ、美月か?知ってるけど?」
…なぜここにきて美月の名が?
なんだかちょびっとイヤな予感がするな。
「佐伯さんって、友達が多いのよ。
あなたも知ってるでしょう?」
「ああ…結構気さくだからな、あいつ。」
「で、そのうちの一人が、その…そういう本に興味があるらしいのよ。
それにあなたと神崎くん、仲がいいでしょう?
だからその子、あなたたちのことを見てて『そういう妄想』をしているようなの。
そこで、新聞部の佐伯さんなら色々記事を書いてるし、
あなたと神崎くんの両方と仲もいいから──」
そこまで話を聞いて、俺にも少し読めてきた。
なるほど、そういう訳だったのか。
「つまりこういうことだろ?
その友達が美月に、『そういう小説』を書いてほしいと依頼してきた。
俺のことを昔っから知ってるし、
新聞部員なら、文章を書くのが上手だと思ったんだろうな。
が、あいつはそういうのを書けない。
そこで、美月が澪ちゃんに頼んだってわけだ。」
「ええ、そうよ…私なら文章を綺麗にまとめれる、と思ったんでしょうね。」
澪ちゃんは、少し呆れた顔でため息をつく。
こんな馬鹿げたことやってられない、とでも言いたいんだろうか。
「でもね、本当のこと言うと少し嬉しかったの。」
さっきまでの呆れた顔から一変して、
少し穏やかな、優しい笑みを浮かべる。
「あなたも知ってるんでしょう?
私が冷たい女の子だって言われてるの。『氷の美女』とか何とか…。」
「ああ、知ってるよ。」
「みんな、私のことをそういう風にしか見てないんだって思ってたから…
佐伯さんが自分から近づいてきてくれたの、ちょっと嬉かったわ。
…こんな小説を書かされるとは思ってもみなかったけど。」
途端に暗い表情になり、ハァ、と大きくため息をつく。
さすがに、この小説に関してはあまりよくは思ってないみたいだ。
「…でも、やっぱり少し嬉かったのよね。
内容はどうあれ、私に近づいてくれる子がいたんですもの。」
そう言うと、澪ちゃんは俺にむかってもう一度ニッコリと微笑んでくれた。
その笑みは『氷の美女』と呼ばれている女の子のものとは思えないほどに
柔らかく、温かいものだった。





「…いいよ、その小説。
その美月の友達に渡してやってくれよ。」
床にたたき付けた小説を拾い、
ほこりをパンパンと払った後、澪ちゃんに手渡す。
「いいの?後で後悔しても知らないわよ?」
「…まぁ、なるようになるさ。
俺は実際は七瀬とは単なる親友だし、
本当はNANAと付き合ってるわけだしな。
っと、これは学校側には内緒だぜ?」
俺が人差し指を口元にあて、内緒のポーズをとると
澪ちゃんはフフッ、と軽く笑いかけてくれた。
「そうね、黙っててあげるわ。
ただし──」
「なんだよ、黙っててくれないのか?」
「──私を今度、あなたのお友達に紹介してくれないかしら?
佐伯さんが私に近づいてくれたんですもの。
こっちからも近づかないとダメでしょう?」
「ああ、わかった。今度、紹介してやるよ。」
「ありがとう。」
嬉しそうにお礼を言ってくる澪ちゃんを後ろに、
俺は図書館を後にした。
さすがに澪ちゃんの小説のことは七瀬には言えないな…。
なんとか、騒ぎにならないでくれると助かるんだけど、
多分そうはいかないんだろうな…。




ちなみにこの数週間後、
とある同人誌即売会で澪ちゃんが売り子をしている姿が
発見されたという噂が流れたんだが…
多分…事実なんだろうな。







〜終わり〜




ちとヤバ気な内容かもですが、
まぁ…最後はいい感じで終わってると思うので、
見捨てないでやってくださいw
克雪様