嫉妬
「嫉妬」



「慎吾くんどこかな〜♪」
 今にも鼻歌を歌いながら、スキップしそうなほど上機嫌で、NANAは弁当を慎吾といっしょに食べようと探していた。
 別に弁当の出来が凄く良かったわけではなく、
 NANAにとって慎吾と一緒にいられるだけで(それがどんな些細なことでも)幸せなのである。
 そんなうきうき気分のNANAの眼に、探している人物、橘慎吾の姿が見えた。
「あ、慎吾く……」
 声をかけようとするが、隣には美月がいた。美月の姿を見た途端、急に声が出なくなった。
 そんなNANAに気付くはずも無く、慎吾は美月と話していた。たまに笑ったりと、すごく楽しそうに見える。

―ソンナカオヲ、ホカノヒトニミセナイデ―

「―――ッ!」
 急に心の奥底から湧き上がった、それでいてはっきりと感じた思いに、NANAは駆け出していた。
「慎吾くんっ!!」
「どっ!どうしたんだ、NANA?そんなに興奮して?」
「お弁当一緒に食べよ!!」
「いっ、いいけど…」
「じゃ、行こッ!!」
「ちょッ、襟を引っ張るなって、NANA!」
 ズルズルとNANAは慎吾を引っ張っていく。
美月はNANAの勢いに飲まれ、その様子をぽかんと眺めていた。



「慎吾くんッ!美月ちゃんと何話してたのッ!」
「何って…今度の記事の打ち合わせだけど…」
「何で打ち合わせで、あんなにも楽しそうにしてたの!」
「いや…昔話に花が咲いて…」
「本当!!」
「本当だってば!」
 慎吾は否定するが、NANAはまだ信じられず、むーと唸りながら、上目使いで睨み付ける。
そんなNANAの様子に、慎吾の頭の中にひとつの考えが浮かぶ。
「NANA、もしかして…妬いてる…?」
「―――ッ!」
 NANAは雷に打たれたかのように身体を震わせる。
「図星か」
「………うん」
 嫉妬しているのがばれた途端、今までの勢いが嘘だったかのように、おとなしくなる。
「………私、嫌な女の子だね……」
 うつむいて呟く。
「何で?」
「だって、友達に嫉妬するなんて……」
「そんなこと無いぞ」
「えっ?」
 慎吾の言葉にNANAは顔を上げる。
「俺も、NANAがあんまり七瀬と仲がいいから、たまに嫉妬するし……」
「嘘ッ!?」
「いや、ホント……」
あさっての方を向き、頬を掻きながら、慎吾は答える。
「まあ、俺もNANAもそれぐらい相手のことを思ってるってことだ」
 そう言った慎吾の顔は、これでもかと言わんばかりに、赤かった。

翌日

「むーーー」
「…ということに変わったんだけど、良いわね?」
「別に良いけど……」
「なに?ノリが悪いわよ?」
「いや、後ろから殺気がひしひしとしてるもので………」
「ああ、なるほど。ごめんね、七海ちゃん。今返すから」
 そう言って、美月はNANAに笑顔を送る。
「大丈夫だよ、姉さん。慎吾くんが浮気するなんて事、無いから」
「……うん、そうだよね!」
「そうそう」
 殺気から解放され、ほっとしながら慎吾が相槌を打つ。
「慎吾くん、七瀬に嫉妬するぐらい、私の事思ってくれてるんだもんね!」
 が、すぐに絶対零度の世界へと、叩き落とされる。
「………慎吾くん、僕のこと、邪魔だったの………?」
「いや!そんなことは…」
「今の話、チョ〜ット聞かせて貰うで〜!」
「ちょっと待て、ライム!俺は別に七瀬を邪魔者扱いは…」
「あ、面白そうだから私も聞かせて」
「おい、美月ッ!」
「ふむ、橘の奴、意外と嫉妬深かったんだな」
「意外だな〜」
「……そこまで思われるなんて、ちょっと羨ましいな…」
 こめかみに手を当て、ハアと溜め息をつき、澪が声をかける。
「遅刻するわよ?」
 が、その声は騒いでる慎吾たちの耳には届かなかった。


「私、そんなに大変な事言ったかな?」





終わり





あとがき
この作品はNANAが嫉妬する所を書きたかったために出来た作品です。
NANAは良い子だから、ダークルートじゃなければ、嫉妬しても自己嫌悪に陥ると思います。
慎吾が嫉妬深いのは、拓人に対しての反応からです。   
それと、自分の小説では、七瀬は一緒に学校に行っています。
白昌様