「目指せ、80センチ後半!」
「ん?何だこりゃ?」
翌日、慎吾が下駄箱を開けると、一枚の手紙が入っていた。
もちろん、手紙を出した主は、遠く離れたところから
その手紙の行く末を暖かく見守っているが、
当然のことながら慎吾たちは、その熱いまなざしに気付いてはいない。
「あ〜、これってもしかして、ラブ──ムグッ!?」
大声で『ラブレター』と叫ぼうとした
七海──今は、通称NANAだが──の口を大慌てで塞ぐ。
同じ男子生徒にならともかく、こんなことを先生に聞かれでもしたら、大問題だ。
ここ鷹宰では、男女交際一切禁止、しかも、ばれたら即退学なのだから。
「ム〜、ム〜!!」
口を塞がれたNANAは、慎吾に好意を寄せている女の子がいることが
不満なのか、なにやら言いたそうにしている。
「ほらNANA、おとなしくしろっての!」
パッ、とNANAの口にあてがっていた手を離す。
開放されたNANAは、プハアッ、と小さな口から息を吐き出し、
キッ!と上目遣いに慎吾を睨む。
そんな仕草も、正体を知っている慎吾から見ればとても愛らしく見える。
もちろん、可愛い男の子が大好きだという者や、
男女関係なしに可愛いものは可愛いという、
母性(父性?)本能の強い者が見ても可愛いのだが。
「もうっ、何するのさ!ボクは別に、その手紙を破り捨てようとか、
焼却炉で燃やしちゃおうとか考えてないのに!」
「お前…いや、まぁいい。ちょっと読んでみるか。」
「あ〜っ!!読むんだ!?読んじゃうんだ!?
ボクというものがありながら、その女のコに会いに行くんだ!?
でもって、あ〜んなことや、こ〜んなことをしちゃうんだ!?
そして、ボクは用ナシになって、捨てられちゃうんだ!」
「バカNANA!!なに大声で口走ってんだ!」
幸いにも、今の時間にはこの二人以外にはほとんど人の姿はなく、
あったとしても慎吾たちとは学年の違うものだったため、
コソコソと陰で話させる程度ですんだようだ。
それだけでも、当の慎吾にしてはあまり気のいいものではないのだが。
「さて、気を取り直して────何じゃコリャ!!」
「うぅ〜…ボクにも見せてっ!
って…な、何これ〜〜〜〜!?」
慎吾の横から、ひょこっとNANAが手紙を覗く。
そこには、書いた本人の名前も何も書いてなく、
二人の予想を遥かに上回る──いや、ある意味下回る内容の文面が
手紙の真ん中に一行だけ、綴られていた。
『わ、私のおっぱい、好きなだけ揉んじゃってくださいっ!!』
END