おめでとう×2
神社を離れた8人は、帰り道が異なるというのに、同じ方向へと歩いていた。
若菜は首をかしげる。
「ねえ美月ちゃん、どこへ行くの?」
「え〜と。せっかくみんな集まったんだしさ、少し寄り道しようと思って」
その寄り道は、鷹宰学園付近へと向かっていた。
道中、慎吾は美月に耳打ちをする。
「他のみんなにはもう話したのか?」
「あんた達がはぐれてる間に、全部ね」
「そうか」
道は、若菜の見慣れた建物へと続いていた。
正確にはそれを見るのは初めてなのだが、それは若菜の知る建物に酷似していた。
鷹宰学園女子寮…にそっくりな、男子寮。
「あの、女子が入ったら…」
「大丈ー夫。今日は寮のおばちゃんしかいないって確認済みだから」
と答えて、慎吾達は寮へ入っていく。
若菜も後に続いた。
造りは女子寮と大差が無く、何だか不思議な感覚がした。
慎吾達は雑談をまじえながら、若菜を連れて食堂へとやって来た。
ドアを開けて、中に入る。
「いらっしゃいませ〜っ」
時代遅れな割烹着に、牛乳瓶の底のような眼鏡をかけた奇妙なおばちゃんが出迎えた。
「キャッ」
「な、なんやっ!?」
「突然奇妙な生物がっ!?」
女子達は初めて遭遇する奇妙な生物に、驚きを隠せなかった。
「何ですかその反応は。とくにそこのあなた、奇妙な生物とは何ですか奇妙な生物とはぁ?」
「す、すみません…」
愛想笑いを必死で作る美月を、おばちゃんは妖気を放出しながら睨みつけた。
そして慎吾を除く男性陣は『実際奇妙な生物だろう』と、心の中で呟いた。
「この人が男子寮の管理人さん。今回、快く食堂を貸してくれたんだ」
「快く、ねぇ…」
寮のおばちゃんは眉根を八の字、口をへの字にして、嫌味たっぷりな口調で言った。
すると慎吾は唐突に、
「そーいやNANA、英語の宿題はどれくらい終わった?」
「英語の宿題? もう全部やっちゃったけど…」
「そうか、さっすがNANA。俺英語苦手だからなぁ…。
誰か、英語を教えるのが上手な人はいないかな。そう、たとえば弥」
「あわわわわ〜〜〜〜〜〜っ!!」
なぜか寮のおばちゃんは慌てふためき、慎吾は口元がニヤけるのを抑えるのに必死だった。
「そ、そんな事より早く席に着いてはいかがですかぁ? せっかくのお料理が冷めてしまいますよ」
そこで若菜はやっと食堂を満たす美味しそうな匂いと、テーブルに並べられたごちそうに気づく。
ごちそうの中心には大きなケーキ。
ポカンとしている若菜の背を、美月がグイグイと押す。
「さ、若菜。早く席に着いて」
「え? あの、美月ちゃん?」
問答無用でケーキの前に座らされ、若菜は当惑して視線を巡らす。
この状況に戸惑っているのは、自分だけだ。
「わーかなっ。ケーキの文字を読んでみなよ」
「ケーキの文字?」
真っ白なクリームの上に、チョコレートクリームで文字が書かれていた。