ココロにリボンをかけて
キーン、コーン、カーンコーン…。
チャイムが授業の終了を告げ教師が教室から去ると、慎吾は大きな背伸びをした。
午前中最後の授業は、化学室でもたもたしていたせいで遅刻してしまい、どうも居心地が悪かった。
それがやっと終わったのだから、気分はいい。
「はふぅ…疲れた」
「ねえねえ、今日のお昼ご飯はどうしようか?」
「んー…そうだな。何かあったかい物が食べたいし、うどんでも食うか」
「だったら、ボクはおかめうどんにしようかな」
「飯食う相談か?」
和やかな会話を交わす2人の前に、新たに2人の生徒がやって来る。
太陽と、光だ。
「ああ。俺達はうどんでも食おうかと思ってるんだけど…」
「へー、うどんか。じゃあ俺はラーメンにしようかな」
3人が昼食を麺類にしようと決めた瞬間、お昼はサンドイッチと決めているおぼっちゃんが太陽の肩を叩いた。
「太陽。君は2人に話があるのではなかったか?」
「あっ、そうだった」
太陽はちょっと言いずらそうに、声をひそめた。
「あのな、お前等が特別授業の後、遅れて来たから言い忘れちまってたんだけど…英会話の授業で伝言頼まれたんだ」
「英会話で…」
「伝言?」
「ああ」
男女合同で行う特別授業。
英会話を選択し、太陽に伝言を頼む人物といえば…心当たりは2つ。
「NANAとライム…か?」
「おうっ。放課後、慎吾と七瀬に中庭で待ってて欲しいんだとさ。掃除があるから少し遅れるって言ってたぜ」
「放課後…」
「中庭で…」
放課後中庭で2人が何をしようとしているか、考えるまでもなかった。
それに中庭は確かに人が来る事はあまり無いのだが、あくまであまりの話だ。
「ちぇっ、羨ましいなぁ。俺も一個くらいチョコレートが欲しいぜ」
太陽は知らないのだが、すでにチョコレートをもらった人物を七瀬と光はじろりと見つめた。
その羨ましい人物は、難しそうに何事かを考え込んでいる。
「まいったなぁ…」
「放課後とはいえ、中庭じゃあ誰かに見つかっちゃうかもしれないしね」
「いや、それもあるんだけど…放課後はもう先約があるんだよ」
「なにぃっ!? 橘、もしや他にもチョコをもらう当てがあるのかっ!?」
「光っ、声がでかいっ!」
「ちょ、ちょっと待て。今他にもっつったよな? それじゃあ慎吾、もうチョコもらったのかよ?」
「あ、ああ…でも勘違いするなよ。義理チョコなんだからな」
「それでも十分羨ましいぞ…」
太陽は疲れ果てた老人のようにうなだれ、背中に哀愁がただよいだす。
今日はよく人(特に男子)が落ちこむ日だ。
「そんな事より、早く食堂行こうぜ。席取られちまう」
サンドイッチの品切れを恐れた光と、元から食い意地の張った太陽は、すぐに気を取り直して食堂へ向かった。
幸いサンドイッチは品切れ寸前で手に入り、席もなんとか空きを見つける事が出来た。