ココロにリボンをかけて
放課後キミを待っているの。中庭の隅で。
夕暮れの中、2つの影が、影の持ち主の2〜3倍ほどの長さに伸びる。
冷たい2月の風が、NANAのポニーテールをゆらゆらと揺らした。
「慎吾君、遅いなぁ…」
腕を組んで身をすくませ、ブルブルと震えながら…それでも健気に待ち続ける。
「来たらどついてやったらどうや?」
「どつく…って、そんな事出来ないよ」
「NANAは優しいなぁ。うちやったら、あの馬鹿どつき回してまうわ。
それにしても七瀬君遅いなぁ…何かあったんやろか? 心配やわぁ」
慎吾と七瀬。2人とも中庭に来るのが遅いというのに、一方をどつく気満々で一方を心配するライム。
そんな彼女にツッコミを入れたいNANAだったが、それより先に、自分達へと向かってくる人影に気づく。
「来たっ!」
見間違えるはずがない。
愛しい彼と、愛しい弟。
NANAは思わず2人に駆け寄り、その脇を吹き抜ける一陣の風。
否、それはライムだった。
七瀬の少し前を歩く慎吾を突き飛ばし、仔猫のように七瀬に身体をすりよせる。
「七瀬くぅ〜ん、遅かったやないのぉ」
「ご、ごめんね。ちょっと寄る所があったから…」
謝りながら、七瀬は周囲に視線を走らせた。今の状況を誰かに見られたら非常にマズイ。
一方慎吾はよろめきながら、ライムにぶつかった肩をさすっていた。
「慎吾君、大丈夫?」
「あ、ああ…それよりNANA、ずいぶんと早いな。掃除してたんじゃないのか?」
「寒い中キミを待たせたくなかったらか、ライムちゃんと一緒に大急ぎでやったんだよっ」
「そっか…それじゃあ俺達ももう少し早く来ればよかったな。
寒い中長時間待つのは辛いと思って、ちょっと時間つぶしてから来ちまった」
ちなみに時間をつぶしたとは、美月とのふざけ合いの事だ。
「なんや、情けない奴やな。うちらはちゃーんと寒いの我慢して待っとったいうんに」
「俺はともかく、七瀬は身体が弱いんだから仕方ないだろ」
「え?」
驚いたのは七瀬だ。
慎吾がそんな事を考えて行動していたなんて、まったく気づいていなかった。
「慎吾君…ボクの事、気遣ってくれていたんだ」
「いや、まあ…一応な」
込み上げる嬉しさを押さえきれず、七瀬は慎吾に歩み寄った。
まるで恋する少女のような、可愛い笑顔で。
2人の視線が絡み合う。
言葉はいらない、互いの想いが伝わる。
確かな絆で結ばれているのが解る。