ココロにリボンをかけて






「…って、何いい雰囲気になっとるんよっ!」

 本場大阪で鍛えられたライムのツッコミが、2人の間に割って入った。
「ちょっとっ! うちの七瀬君を誘惑せんといてくれるぅ?」
「ゆ、誘惑だぁっ!? んな事する訳ないだろ、俺達は男同士なんだぞっ! 七瀬だってそんなつもりは無かったよなっ!?」
 同意を求めての言葉に七瀬は。
「えっ? あっ、その。ボク…」
 どう答えていいか戸惑っていた。
「だ、ダメェ〜っ! いくら七瀬でも、彼は渡せないんだからっ!」
「そうや。七瀬君にはうちがいるんやから、血迷ったらあかんっ!」
「ダァァァァァァァァッ! お前等、変な誤解してんじゃねーっ!」
 NANAは七瀬を不安げに見つめ、七瀬は困ったようにライムを見つめ、
 ライムは敵意剥き出しで慎吾を睨み、慎吾は自分の運命というかお約束を感じながら地を見下ろしていた。
「ああ……もうっ、この話は終わりっ! とっとと本題に入ろうぜっ!」
「そうだね。あまりのんびりしていると、誰かに見つかっちゃうかもしれないし……」
 気を取り直して、慎吾は微笑みながらNANAと向き合った。
 七瀬も精一杯の笑顔を作って、ライムと向き合う。
「あ、あの…慎吾君。あのね、今日…ここに来てもらったのはぁ…」
「バレンタインチョコだろ?」
 沈黙の瞬間だった。慎吾は眉を寄せる。
「違うのか?」
「う、ううん。違わくはないんだけど…」
「女心の解らん奴やなぁ…チョコ渡す前にそんな事言われたら盛り上がりに欠けるやろ」
「慎吾君…ボクも今の言い方はどうかと思うよ」
 ライムの軽蔑の眼差しと、七瀬の諭すような眼差しと、NANAの寂しそうな眼差しが痛い。
「わ、悪ぃ。さすがに3度目ともなると変に慣れてきちまって…」
「3度目ぇっ!?」
 信じられないとでもいうように、NANAは驚愕に身を震わせた。
 慎吾の胸元を掴み、キスしてしまうほど顔を寄せて瞳を覗き込んでくる。
「ど、どういう事っ!? だって、チョコのやりとりは学校側に禁止されてるじゃないかぁっ!」
「それはそうなんだけど…それでも渡してくれる子がいて。NANAだってそうだろ?」
「いったい誰にもらったのさっ!?」
「えーと…澪ちゃんと美月。あっ、誤解するなよ、2人からもらったのは義理チョコなんだからなっ!」
「うう〜…。ボクが一番最初に渡したかったのにぃ…」
「登校中に渡せばよかったじゃないか。いつも一緒に学校来てるんだし」
「キミのために夜遅くまでチョコレートを作っていたから、お寝坊しちゃって…」
 濡れた瞳で見つめられた慎吾は、なんだか自分がものすごく悪い事をしてしまったかのように思えてきた。
「NAーNA、気にすんなよ。男ってのはな、義理チョコをたくさんもらうより…1つでもいいから、
 本命のチョコレートをもらう方がずっと嬉しいんだ」
「そう…思ってくれているの?」
「ああ」
「須藤さんや佐伯さんのチョコレートより、私のチョコレートの方が…」
「そうだ。だから…NANA、泣くな」
「…うんっ!」
 NANAは夕陽で赤く染まった頬をより赤くして、鞄の中からそっと小さな包みを取り出す。
「これ…受け取って」
 NANAの心のこもったチョコレート。
 恋する彼に渡す…リボンをかけて。
「ありがとう、NANA…」
 慎吾がチョコへと手を伸ばすと、NANAと指先が触れ合った。
 照れ笑いを浮かべる2人を、七瀬とライムはじっと見守る。






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