ココロにリボンをかけて
「た…ただい…ま……」
「慎吾君っ! よかった、無事だったんだねっ!」
疲れ果てた姿で、慎吾は寮へ帰ってきた。門限ギリギリの時間に。
よろける慎吾の身体を抱き支え、七瀬はベッドまで付き添った。
「なんとか…逃げ切ったぜ…。学校の外…まで追って、来やがって……畜生っ」
ベッドの上に倒れ込むと、慎吾はゆっくりと深呼吸をした。
甘い空気が肺を満たす。
もしかしたらそれは、ベッドに残されている七瀬の残り香だったのかもしれない。
けれど慎吾は、それがチョコレートの匂いだと思った。
そしてそれを肯定するかのように、慎吾の眼前に1つのチョコレートが差し出される。
「慎吾君、これ…」
「…チョコ? それ、美月のか? それともライム?」
七瀬はゆっくりと首を横に振った。
「違うよ。このチョコレートは、ボクからの物…。受け取ってもらえるかな?」
「七瀬…からの?」
言葉の意味がよく解らない。
どうして男の七瀬が?
「木陰で休んだ後、寮へ帰る途中で買ってきたんだ…。キミが必死にボクを守ってくれたお礼だよ」
お礼とはいえ、男がバレンタインにチョコを渡すのはものすごく変だ。
普段の慎吾なら戸惑い、受け取らなかったかもしれない。
けれど疲れ果て思考能力が低下していた慎吾は、深く考えずチョコを受け取った。
「…さんきゅ」
「こちらこそ、本当にありがとう」
慎吾は疲れのせいか、夕食も摂らず浅い眠りについた。
そんな彼の寝顔を、七瀬はとても幸せそうに見つめていた。
夜が更けていく。
慎吾の目覚めは、夕食を終えた光の来訪とともに訪れた。
そして光の一言。
「橘、神崎君。そろそろ化学の勉強を始めようか」
しわの出来てしまった澪のノートを広げ、夕食も摂らぬまま慎吾と七瀬は勉強を開始するのだった。
けれど、空腹と疲れた身体を癒す物はいっぱいある。
心にリボンをかけた、とても甘いものが…。
お し ま い
SUMI様
TAMAMI様、お誕生日おめでとうございますっ!!