桜色の空の下で
風が吹いた。
舞い散る桜の花弁が、風に抱かれて空へと舞い上がる。
そんな中、春の日差しを浴びてきらきらと輝く黄金の髪。
鮮やかな青の瞳は、まるでサファイヤのよう。
ライム・リーガン。
大阪育ちのアメリカ人という事で、学園ではちょっとした有名人。
「ライム……」
舞い散る桜の中、金髪碧眼の美女は卒業証書を片手に待っていた。
真っ直ぐな瞳を慎吾に向けて。
そんな瞳を、慎吾はじっと見返している。
とても真摯な眼差しが絡み合う。
二人にしか通じない何かを感じる。
もしかして……。
あたしはハッと慎吾の横顔を見た。
もしかして、慎吾の好きな人って……?
「ちょっと、通してくれるかな?」
慎吾は優しく微笑んで、自分を取り囲む女子生徒の間を通って……リーガンさんへと向かう。
女子のみんなは、固唾を飲んで慎吾を見守っている。
憧れの先輩、噂の生徒会長の好きな人が、ついに明かされるのかもしれないのだから。
一歩、また一歩と、慎吾はリーガンさんに歩み寄る。
時間にしてほんの数秒。けれど、とても長い時間に感じられた。
ふと周囲を見回せば、距離を置いて他の生徒も立ち止まり、慎吾とリーガンさんを見ている。
みんながみんな、これから起こる事に期待と不安を寄せている。
慎吾の足が止まった。リーガンさんの前で。
無表情のまま互いを見つめる二人。
ザァッ、と風が吹いた。
桜の花びらが宙を舞う。
「……ライム」
慎吾の唇が、ゆっくりと動いた。
「ライム。俺っ……俺は……」
感情に訴えかける、凛とした慎吾の声。
リーガンさんの頬が緩んだ。
春の日差しのような、あたたかい微笑み。
彼女はゆっくりと右手を上げた。
白い指をギュッと握り拳を作り、肩を軽く引いて、力を込めて……。