桜色の空の下で
思いっ切りぶん殴った。手加減無しで、握り拳を慎吾の頬に叩き込んだ。
プロボクサー顔負けの、見事なフック。
慎吾の身体がよろめいた。
……って、何なのよこの展開はっ!?
周りのみんなも呆気にとられて、どう反応していいか困ってるじゃないっ!
何? てっきり愛の告白でも始まるかと思ってたのに、どうしていきなり殴られてんのよっ!?
「ちょ、ちょっと……大丈夫っ?」
あまりの事態に混乱しながら、あたしは慎吾に駆け寄った。
唇を切ったのか、口元から一筋の血が流れている。
赤く濡れた唇が弧を作り、ニヤリと笑った。
リーガンさんは殴った手を押さえて、少し涙目になっている。彼女も痛かったらしい。
そして彼女も痛みをこらえて笑みを作ると、凛とした瞳で慎吾を見た。
「っつぅ〜……。うちからのせんべつや、ありがたく受け取っとき」
「受け取れ……って、渡してから言ってんじゃねぇよ」
服の袖で唇を拭う慎吾は、殴られたというのになんだか嬉しそう。
まるで、何かに吹っ切れたような……。
「さ〜てと。お兄ちゃんも待っとる事やし、うちはそろそろ行くわ。あんたも元気でな」
「ああ、お前もな」
笑顔のまま、リーガンさんはあたし達に背を向けて歩き出した。
血の滲んだ手をひらひらと振りながら。
そんなリーガンさんの背中から、慎吾は視線をそらそうとしない。
「ライムっ! 夢を叶えろよ、応援してるからなっ!!」
「あんたもなっ! 次に会う時は二人一緒やないと承知せんよっ!!」
しだいに背中は遠くなり、リーガンさんは校門で待っていた男の人に肩を抱かれて去って行った。
リーガンさんにそっくりな金髪の人だったから、あの人がお兄さんなのだろうか?
それにしても、今のはいったい何だったのよ?
いきなり殴られて……しかもせんべつとか言ってたし。
「慎吾、あんたいったい……」
「美月、俺達もそろそろ行こうぜ」
あたしの背中をポンッと叩き、慎吾は歩き出す。
「ちょっと待ってよっ! 説明無しっ!?」
「説明って何のだよ?」
慎吾に追いつき、並んで歩く。
「なんでリーガンさんにいきなり殴られてんのよ? それにせんべつだとかなんとか……」
「あ〜、あれだ。拳で語るってやつ?」
「何よそれっ!?」
「まあ、あいつとは色々あったからなぁ……。でも、あれだけで互いの想いは十分解り合えたさ」
「はぁっ!? 訳解んない」
「ハハハッ。さーて、帰ろうぜ美月。多分俺、親父にも一発殴られるんだろ〜なぁ」
「あーもうっ! なんであんたはそうマイペースなのよぉっ!?」
こいつと喋ってるうちに、校門はもう目の前まで来ていた。
この門を一歩出たら、あたし達の新しい生活が始まる。
思い出のつまった鷹宰学園にさようなら。
そうして歩き出すんだ。
それぞれの道を、それぞれの夢に向かって。
生まれる前からの腐れ縁だった、生まれる前からずっと一緒だったあたし達の道も、ついに分かれ道を迎える。
分かれ道はもう目の前だ。
けど、もう少しだけこの道は続いている。
あたし達の生まれ育った、懐かしい我が家まで。
校門を出る。新しい道が始まる。
分かれ道へと続く帰路の道を、あたしは出来るだけゆっくりと歩き出した。
大切な幼馴染みと一緒に、桜舞う中、ゆっくりと……。
TO BE CONTINUED
NEXT STORY
NANA END
HAPPY WEDDING!!
生徒会長ENDと探偵ENDの複合ENDです。
これはこれでハッピーエンドにまっしぐらですが、澪ちゃんがちょっぴり不幸かも?
最後に何の伏線も無く唐突にライムが出てきちゃいますが、まあ私の趣味という事で(笑)
この物語の続きはゲーム本編で!
SUMI様