NANA頭巾ちゃん
恋愛CHU?
〜NANA頭巾ちゃん〜



昔々ある所に、NANA頭巾という大変可愛らしい女の子がいました。
NANA頭巾はとある事情で両親と暮らす事が出来ず、温子伯母さんと二人っきりで暮らしています。
温子伯母さんはとても優しい人で、NANA頭巾は温子伯母さんの事が大好きです。
ある日、温子伯母さんが言いました。
「NANA頭巾、ちょっといいかしら?」
「なぁに?」
「七瀬の事で、ちょっとお願いがあるのだけれど」
NANA頭巾には双子の弟がおり、名前を七瀬といいました。
「実はね、七瀬が風邪を引いて寝込んでしまったの」
「ええっ!?」
七瀬は生まれつき身体が弱く、空気のきれいな山の中で暮らしています。
きっと今頃、一人ぼっちで寂しい思いをしている事でしょう。
「それでね、NANA頭巾にお見舞いに行ってもらいたいの。
 この果物とブドウ酒を持って……あ、未成年にお酒はよくないわね」
温子伯母さんは戸棚から、一本のビンを取り出しました。
「以前、太陽さんからいただいたこのステキドリンクを……」
「ス、ステキドリンクっ!?」
NANA頭巾は狩人の慎吾と文通をしています。
そして慎吾の宿舎に遊びに行った時、NANA頭巾の歓迎パーティーがありました。
その時、慎吾と同じ狩人の太陽とも出会ったのです。
NANA頭巾の歓迎パーティーで、なぜかみんなでマージャン大会をしました。
大会で準優勝したNANA頭巾は、
罰ゲームとして太陽の作った『ステキドリンク』を飲む事になったのです。
それはとてもこの世の物とは思えない、摩訶不思議な飲み物でした。
ちなみに、マージャン大会優勝者は狩人達のリーダーである『狩人のおばちゃん』です。
「温子伯母さん! そんなの飲ませたら風邪がますます酷くなっちゃうよ!!」
「あら、そう?」
NANA頭巾はステキドリンクを取り上げると、元の戸棚に押し込んでしまいました。
「仕方ないわね。それじゃあ飲み物は、このオレンジジュースにしましょうか」
こうしてNANA頭巾は、七瀬の暮らす山へと向かいました。
NANA頭巾が家を出た後、温子伯母さんはステキドリンクを手に持ち、不思議そうに見つめます。
「これはいったいどんな味がするのかしら……?」
恐る恐るふたを開けてみると、中から異臭がただよってきます。
温子伯母さんは慌ててふたを閉めました。きつく、きつ〜く閉めました。






NANA頭巾が山道を歩いていると、狼が彼女を木の影から見つめていました。
「う〜ん……NANA頭巾、本当に七瀬君そっくりだ」
狼の拓人は、長い舌で裂けた口を舐め回します。
「七瀬君の家の場所を知りたいけれど、あの広い山の中から探し出すなんて無理無理。
 ここはやっぱり、能天気なNANA頭巾から聞き出すのがベスト!」
拓人はニンマリと笑いながら、NANA頭巾の前に姿を現しました。
「君はNANA頭巾ちゃんだね?」
「え? はい、そうですけど……」
「僕は親切なロンリーウルフ。NANA頭巾ちゃんはどこへ行くんだい?」
「弟のお見舞いに、山へ」
「そうか。NANA頭巾ちゃんは優しいね。そうだ、どうせならそこにあるお花を摘んでいってはどうかな?」
「お花を?」
NANA頭巾が狼の指差す方を見ると、キレイな野花が咲き乱れていました。
「そう。きっと七瀬君は喜んでくれるよ」
NANA頭巾は拓人の口車に乗ってしまい、お花を摘み始めてしまいました。
お花を摘むのが楽しいNANA頭巾は、油断しまくりです。
「ところでNANA頭巾ちゃん、七瀬君の家はいったいどこにあるのかなぁ?」
「うん? えーっとねぇ、神崎山の73番地の真ん中あたり」
しめしめと笑いながら拓人は神前山の73番地を目指します。






拓人は舌舐めずりしながら、七瀬の家にやって来ました。
コンコンと数回ドアをノックすると、中からパジャマ姿の七瀬が返事をします。
「――はい、どちら様ですか?」
「私よ、NANA頭巾よ。お見舞いに来たの、ドアを開けてちょうだい」
「……姉さんはそんな低い声をしていません」
「え〜と、か、風邪を引いてしまって……」
「姉さんは風邪を引いたら家で静かに寝ている良い子です」
「いいから開けろーっ!」
拓人が思い切りドアに体当たりをすると、ドアは壊れてしまいました。
「うわぁっ!」
七瀬は間一髪で拓人をかわし、部屋の奥へと逃げ込みます。
しかし元々病弱なうえ風邪までひいているのですから、拓人から逃れられるはずがありません。
七瀬は拓人に食べられると思い、恐怖で動けなくなってしまいました。
そして拓人は、七瀬に欲望の牙を向けて歩み寄ります。
拓人はニヤニヤと笑みを浮かべながら、するどい爪を生やした手を七瀬の胸元に持っていき、
七瀬のパジャマのボタンを、一つ一つ丁寧にはずしていきます。
「な、何をするんだ!? 僕を食べるんじゃ……」
「食べるさ。と言っても、何も胃袋に収める事だけを食べると言う訳ではないし」
その瞬間、七瀬は理解しました。
この狼は別の意味でも狼で、別の意味で自分を食べようとする変態だと。
「た、助けてぇ〜〜っ!!」
そりゃあそうでしょう、初めての相手が変態狼だなんてシャレになりません。
「叫んでも誰も来ないさ、じっくり楽しもうね」
「うわあぁ〜っ!」
とその時、変態狼の優れた嗅覚がNANA頭巾の匂いを感じ取りました。
「な……もう来たのか!?」
というか、花を摘むのにあまり時間はかかりません。
NANA頭巾は三分とかからず花摘みを終えていたのです。
焦った拓人は七瀬の手足を縛り、さらに猿ぐつわをはめてベッドの下に押し込みました。
そして自分が七瀬の代わりにベッドに潜り込みます。
焦った割には行動が迅速です。七瀬を連れて裏口から逃げちゃえばいいのになんて思っちゃいけません。
「七瀬、お見舞いに来たわよー」
NANA頭巾は家の中に入り、ベッドの脇にお花を置きました。
「ねえ七瀬、ドアが壊れているけれど……何かあったの?」
「それはね、古いドアだから脆くなっていたからだよ」
拓人は無理のある声真似で、七瀬の振りをします。
「ねえ七瀬、何だか声がおかしいけれど……」
「それはね、風邪で喉を痛めてしまったからだよ」
「ねえ七瀬、なんだかやけにベッドが膨らんでいるように見えるけど……」
「それはね、成長期で身体が大きくなったからだよ」
「ねえ七瀬、どうして頭までお布団をかぶっているの?」
「それはね、僕が神崎七瀬じゃないからだよーっ!」
拓人は布団を跳ねのけ、NANA頭巾に襲い掛かります。
「あ、あなたはさっきのっ……!?」
なすすべもなく、NANA頭巾は床に押し倒されてしまいました。
「な、七瀬は!? 本物の七瀬はどうしたのよぉっ!?」
「本物の七瀬君ならほら、そこにいるじゃないか」
拓人の向けた視線の先、ベッドの下にいる七瀬を見つけたNANA頭巾は叫びました。
「な、なんて事をするのよ!? 七瀬は肺が特に弱いんだから、
 あんな埃だらけの所にいたら発作を起こしちゃうじゃないっ!」
「え? そうなの?」
拓人は慌てて七瀬を引きずり出し、猿ぐつわをはずしました。
すると七瀬は苦しそうに咳き込みます。
「た、大変! 早くお薬を飲ませないと!」
「薬はどこなんだ!?」
「そこの棚の上よ、それから水も!」
拓人はNANA頭巾の言う事に従い、薬の準備をしました。
七瀬が発作で倒れでもしたら、美味しく食べる事ができないからです。
薬を飲んだ七瀬は、しばらくすると呼吸が整い始めました。
二人がホッと一安心した時、拓人は自分の目的を思い出しました。
「さて、七瀬君も落ち着いた事だし。まずは邪魔な君から食べさせてもらおう!」
まだ完全に回復していない七瀬を放っておく事が出来ず、NANA頭巾は逃げられませんでした。
「だ、誰か助けてっ!」
「叫んでも誰も来ないさ! あいにく女の子をどうこうする趣味は無いから、君は文字通り僕の胃袋へ!」
恐怖が渦巻くNANA頭巾の脳裏に、一人の男性の姿が思い浮かびました。
文通相手の、大好きな慎吾君。

(お願い……慎吾君、助けてっ! 私を助けに来てっ!)

大好きな慎吾君へ届くよう、NANA頭巾は必死に念じました。
その願いに呼応するかのごとく、家の中に一人の男性が飛び込んできます。
「NANA頭巾、大丈夫かっ!?」
その場にいた三人は、いっせいに入口の方を向きました。
逆光で顔は解りませんが、その服装から狩人だと解りました。
(本当に、来てくれたんだ!)
とNANA頭巾が感動していると、室内に入って狩人の姿が鮮明になります。
「この野郎、NANA頭巾から離れやがれっ!」
それはNANA頭巾が想いを寄せる慎吾…………の友人である太陽でした。
「バカァァァッ!!」
と、NANA頭巾が大きな声で叫びます。
次の瞬間、NANA頭巾を押さえつけていた拓人の身体が、宙を舞いました。
NANA頭巾の巴投げが完璧に決まった瞬間でした。オリンピックも夢ではないほど見事な技です。
飛んで行った先には、助けに来た太陽の姿がありました。
「ぐはっ!?」
太陽と拓人は勢い良く激突し、二人とも目を回して気絶してしまいました。
そこへ、太陽を追って光も姿を現します。
「な、何があったんだ太陽……」
その問いに応えるかのごとく、NANA頭巾は叫び続けます。
「バカッ! バカッ! バカァッ!! どうして太陽君が来るのさ!?
 僕は慎吾君に助けてもらいたかったのに、こういう時は普通、慎吾君が来るものじゃないかっ!?」
光はNANA頭巾の勝手な言葉に呆れてしまいました。






「よう、おかえりぃ。意外と早かったな」
慎吾は狩人が住む家の中で、狩人のおばちゃんの作った昼食をのん気に食べていました。
「……橘、覚悟しておいた方がいいぞ」
光の言葉に、慎吾は首をかしげます。
「覚悟……って何だよ。それより例の変態狼はどうだ? 見つかったか?」
「ああ、見つかったとも」
慎吾は驚いて立ち上がりました。
「で、どうなった!? 退治したのか!?」
「……まあな」
太陽は頭に出来たたんこぶを撫でながら言いました。
「でも、退治したの俺達じゃねぇんだよな」
「はぁっ? だったら誰が退治したんだよ」
その時、太陽の背後から一人の少女が現れました。
「な、NANA!? 何でこんな所に……」
「バカァッ!」
NANA頭巾は慎吾の胸に飛び込み、ポカポカと胸を叩きました。
「バカバカッ! 僕が狼に襲われていたっていうのに、君はのん気にお昼ご飯なんか食べて……」
「お、狼に襲われたぁっ!?」
慎吾が光の顔を見ると、光は大きくうなずきました。
「……そっか。ごめんな、NANA。そんな事があったなんて知らなくて……」
慎吾は優しく、NANA頭巾の頭を撫でました。
「もし知ってたら、どんな事があっても真っ先に助けに行ったのに……」
「……本当に?」
「当たり前だろ? NANAに何かあったら、俺……」
「慎吾君……」
「無事でよかった、NANA……」
慎吾に抱きしめられ、NANA頭巾の怒りはすっかり冷めてしまいました。
代わりに込み上げてきた感情は、喜びでした。
「……もう、いいよ。仕方ないよね、君は何も知らなかったんだし」
「NANA」
「慎吾君」
二人は見つめ合い、しだいに距離が縮まり、そして……。
「君達、少しは慎みたまえ」
光の声で、二人の世界から戻ってきました。
慎吾はパッと身体を離し、恥ずかしそうに頭をかきます。
慎吾は話題を変えようと、とっさに口を開きました。
「そ、そういやぁ狼を退治したのって誰だ?
 NANAを助けてくれたんだから、お礼を言わないとな」
次の瞬間、慎吾を除くその場にいた全員が硬直しました。
しかし慎吾はそんな空気に気づかず、言葉を続けます。
「あのずる賢い狼をやっつけちまうなんて、よっぽどすごい奴なんだろ?
 俺達以外の狩人か? いや、でもこの辺の狩人っつったら俺達しかいないしな……」
まさか襲われていた本人が投げ飛ばしたとも言えず、みんな黙り込んでしまいました。
もしNANA頭巾が投げ飛ばしたと知ったら、慎吾がどんな風に思うか。
「NANA、どうかしたのか?」
「な、何でもないよ。何でも」
NANA頭巾は笑って誤魔化しました。
結局慎吾は、狼を退治したのが誰なのか知る事はありませんでした。



  めでたし めでたし






童話シリーズ第二段。
漫画とかでギャグや作中劇として使われたり、二次創作で使ったりと、童話ネタは色んな所でよく見ます。
やってみると結構サラサラ書けて楽しい反面、童話チックな文章がチトやっかいだったり。
SUMI様












  おまけの座談会

慎吾  「終わった〜」
光   「何が『終わった〜』だ。最後の最後にちょっと出演しただけだろう」
慎吾  「お前もな」
光   「うぐっ、仕方ないだろう。それより話を進めるぞ」
慎吾  「じゃあ出演したみんなに、感想とか言ってもらおうか」
光   「それでは、NANA頭巾役の神崎君」
NANA「こんにちは、NANA頭巾役の神崎七海です」
光   「それでは神崎君、感想を言ってくれたまえ」
NANA「すっごく楽しかったよ!」
光   「……それだけかい?」
NANA「え? だって、楽しかったんだもん」
慎吾  「ところでNANA頭巾……って、何色の頭巾をかぶってんだ?」
NANA「え? そ、それは……」
光   「虹のような七色の頭巾ではないか?」
慎吾  「……趣味悪ぃな、それ」
NANA「た、多分赤だと思うよ?」
慎吾  「……多分、な」
光   「それでは今度は、おばあちゃん(?)役の神崎七瀬君」
七瀬  「こ、こんにちは」
光   「早速だが感想を言ってくれたまえ」
七瀬  「すごく楽しかったですよ」
光   「しかし、結構酷い目に遭っていたのでは?」
慎吾  「風邪で倒れたりとか、貞操の危機とか、発作とか……」
七瀬  「でも、こんな風に皆と何かするって、今までなかったから……」
慎吾  「良かったな、七瀬」
七瀬  「はい」
光   「では次、狼役の相良拓人」
慎吾  「は飛ばして、お母さん役の温子さん」
温子  「…………る」
慎吾  「……温子さん?」
光   「温子さん、どうかしましたか?」
温子  「みる……」
慎吾  「見る?」
温子  「ひあう……みる……」
慎吾  「……って、このパターンはまさかっ!」
光   「橘、これを見ろっ!」
慎吾  「開封されたステキドリンクっ!? 温子さん、まさか飲んだんですかっ!?」 
温子  「にほひは……すろふて、ほんははひは……ひにひゃって……」
    (匂いが……すごくて、どんな味か……気になって)
光   「ダメだ、何を言っているのか解らんっ!」
慎吾  「きゅ、救急車を呼べ〜〜っ!!」

座談会の途中ですが、出演者急病のため中断させていただきます。



太陽  「お、俺の出番は?」