金の斧と銀の斧と鉄の斧
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金の斧と銀の斧と鉄の斧



昔々、あるところに慎吾という名のキコリがいました。
慎吾はいつものように森へ切りに行き、使い古した斧で一生懸命木を切っています。
ところが汗で手が滑って、斧がすっぽ抜けてしまいました。
「しまった!」
不幸にも、斧が飛んで行った先には泉があったのです。
斧は泉に沈んでしまい、拾う事が出来ません。
慎吾が困っていると、泉の中から美しい女神が現れました。
「どうもぉ〜。私はこの泉の女神のおばちゃんでぇ〜す」
「泉の女神の……おばちゃん?」
女神様は純白の割烹着に身を包み、顔にはぐるぐる眼鏡をかけていました。
「はい、泉の女神のおばちゃんですぅ〜。女神様と呼んでくださって結構ですよぉ」
女神様よりおばちゃんの方が似合うな、と慎吾は思いました。
「ところでぇ、あなた泉に落し物をしましたね?」
「あ、ああ」
「解りましたぁ。それでは拾ってきて上げましょう」
女神はニヤリと笑うと、泉の中に姿を消してしまいました。
しばらくすると、女神は何かを両手に掴んで現れました。
「あなたが落としたのは、美少女の神崎七海ちゃんですかぁ? それとも美少年の神崎七瀬君ですかぁ?」
右手にポニーテールの美少女、左手にショートカットの美少年を持っていました。
「ちなみにぃ、二人の顔がそっくりなのは双子の兄弟だからです」
正直者の慎吾は言いました。
「つーか何で人間が泉に落っこちてんだよ」
「ご安心を。二人ともちゃ〜んと生きてますよぉ」
「死んでたら怖いってっ!」
慎吾は怒鳴りましたが、女神はまったく気にしませんでした。
「さあ! あなたが落としたのはどちらの子ですか!?」
「……俺が落としたのは使い古した鉄の斧なんだけど」
「何と正直な若者なのでしょう! 普通なら欲望に負けて、可愛い女の子をもらっちゃったりするのに!」
「……俺が斧を落としたって知ってて、わざとその二人を連れて来たんじゃねぇか?」
「私は感動しました! よろしい、ご褒美に斧だけじゃなくこの二人も差し上げます」
「……は?」
女神様は慎吾の前に斧と、双子の姉弟を置いて泉の中に消えてしまいました。
「はじめまして、神崎七海です。NANAって呼んでね」
「はじめまして、神崎七瀬といいます。姉と一緒にお世話になりますね」
「……二人も人を養えるほど裕福でもないんだが」
この二人を置いて行く訳にもいかず、結局慎吾は双子を引き取りました。
……と、そんな慎吾を見つめる影がありました。
「まさか斧落としただけであんな可愛い子がもらえるなんて……羨ましい奴やわ」
彼女はライムといい、慎吾と同じくキコリをしていました。
慎吾が双子を連れ帰った後、ライムもさっそく斧を投げ込もうとしました。
しかし鉄の斧であんな可愛い美少年(七瀬)をもらえたのなら、
家に置いてある宝物の銀の斧を投げ入れたらどうなるかと考えました。
「せっかくやから、銀の斧で試してみよか……」






翌日、ライムは銀の斧を持って泉に向かいました。
慎吾の真似をして木を切りながら、手が滑った振りをして泉に投げ込みます。
「ああ〜。うちとした事が、ついうっかり手が滑って泉に斧を落としてもうた〜」
ライムが説明口調で叫ぶと、泉の中から女神様が現れました。
「最近泉に落し物をする人が多いですねぇ……。そこのあなた、泉に何か落し物をしましたか?」
ライムは笑顔で答えました。
「そうや。うち、泉に落し物してしもうて……」
「解りましたぁ。今拾ってきて上げますから、そこで待っててくださいね〜」
女神様は泉の中に姿を消し、しばらくすると何かを両手に持って現れました。
「あなたが落としたのはぁ、お金持ちな伊集院光君ですか〜?
 それともぉ、スポーツ万能な川崎太陽君ですか〜?」
「どっちもちゃうわボケェッ!」
ライムは怒鳴りました。
「慎吾の馬鹿は鉄の斧であんな可愛い子もろて、うちは銀の斧落としたのにこんな奴等なん!?」
「こんな奴等……」
「ひでぇ……」
光と太陽が抗議の声を上げましたが、そんなの誰も聞いちゃいませんでした。
「そいつらはいらん、七瀬君を出しい!」
「すいませんねぇ。七瀬君は昨日売り切れてしいました〜。何せ一品限りの限定品なので……」
「そ、そんな……」
「それにぃ、この二人も三品しかない限定品なんですが……」
「三品!?」
「じゃあ俺達、あと二人もいるのか!?」
光と太陽が驚愕の声を上げましたが、そんなの誰も聞いちゃいませんでした。
「というかぁ。あなた、わざと斧を泉に投げ込んだんですかぁ?」
女神様の眼鏡が、怪しい光を放ちました。
「うっ……そやったら何?」
「銀の斧は没収させていただきますぅ。さよ〜なら〜」
「待ちいやボケェッ!」
ライムは地面に落ちていた石を拾うと、女神様に向かって投げつけました。
「はぐアッ!?」
石は女神様の眼鏡に直撃し、気を失って泉に沈んでしまいました。
「まったく……」
ライムは不機嫌な表情のまま、左手に目を落としました。
「ま、斧は返してもらうけどな」
ライムの左手には糸が握られていました。
ライムがそれを引っ張ると、泉の中から銀の斧が出てきました。
そうです。ライムは念のため、銀の斧に糸を巻いておいたのでした。
「しゃーないわ。慎吾の家行って、七瀬君にアプローチ開始や!」
ライムは家に銀の斧を置きに帰ると、すぐさま慎吾の家に遊びに行きました。






ライムの立ち去った数分後、泉に一人の男が現れました。
「ふっふっふ……。この泉に斧を投げ込めば、僕にも七瀬君が……」
彼の名は拓人といい、キコリの中でも評判の悪い変態男でした。
拓人は神崎姉弟を連れ帰った慎吾に事情を聞き、斧を持ってやってきたのでした。
「橘が鉄の斧で七瀬君を手に入れたなら、ボクは金の斧を投げ込んでやる……」
拓人は家宝の金の斧を親に内緒で持ち出してきていたのです。
拓人は木を切る振りをし、手を滑らせたかのように斧を泉に投げ込みました。
「おっとしまった、泉に大切な物を落としてしまったぞ」
拓人はわざとらしく言い、女神が出てくるのを待っていました。
しかしいくら待っても、女神は姿を現しません。
「……何故だ?」
女神様はライムに投げつけられた石のせい気絶しているのですから、無理もないでしょう。
拓人は日が暮れるまで待ち続けましたが、結局女神は現れませんでした。
家に帰った拓人は、家宝の金の斧を無くした事で親に勘当されてしまったそうな。

一方、慎吾は七海と結婚していつまでも幸せに暮らしたそうです。



  めでたし めでたし






童話シリーズ第三弾。
こんな湖があったら色々投げ込みまくりたいです。
普通の懐中時計を投げ込んで、金の懐中時計をもらえたりしたら、もう最高。
金の懐中時計は男のロマンだと思うのですよ。
SUMI様












  おまけの座談会

慎吾  「終わった〜」
NANA「慎吾君、お疲れさま」
慎吾  「サンキュ、NANA」
NANA「それじゃあ、さっそくみんなに感想を聞いてようか」
慎吾  「じゃあまずは、女神様」
弥生  「橘君、神崎君、お疲れさま」
NANA「アレ? どうして弥生先生なの?」
慎吾  「そっか。眼鏡が壊れたから……」
弥生  「た、橘君っ!」
NANA「弥生先生、どうかしたんですか?」
弥生  「な、何でもないわ。その、寮の管理人さんは体調が悪いって、だから私が代理として来たの」
NANA「そうなんですか」
慎吾  「……弥生先生、それかなり苦しいですよ」
弥生  「お願い、内緒にして〜」
NANA「ムムム……! 二人で何を話してるのさっ」
慎吾  「な、何でもないってば」
弥生  「そうよ、何でもないわ」
慎吾  「それより感想だよ感想。弥生先生、金の斧と銀の斧は楽しかったですか?」
弥生  「ええ、とても楽しかったわ。女神様っていうのも素敵だったし、またやりたいわ」
NANA「あの、何だか実際に出演していたような言い方だけど……」
弥生  「えっ? そ、それは……」
慎吾  「つ、次に行こうか! 次はライムだ」
ライム 「未来のハリウッドスター、ライム・リーガンの登場や!」
慎吾  「自分で言うなよ……」
NANA「ライムちゃん。金の斧と銀の斧は楽しかった?」
ライム 「楽しい訳ないわ。結局うちは何の得もせぇへんかったし」
慎吾  「そういや七瀬にアプローチするとか言って俺の家に来たけど、結局どうなったんだ?」
ライム 「知らんわ。あんたらは最後に結婚したて書いてあったけど、うちと七瀬君の事は何にも書いてない」
NANA「そっか、ボク達結婚したんだね!」
慎吾  「そうだな。NANAとの結婚式のシーンとかも欲しかったな」
ライム 「ちょっと! うちを放って話を進めるんやない!」
慎吾  「じゃあ次、光と太陽」
ライム 「無視すんな〜!」
光   「……三品。ボクが三品あるうちの一つ……」
太陽  「ああ〜、残りの二人は何なんだよ〜」
NANA「……ねえ、二人とも変だよ?」
慎吾  「あの台本を真に受けてんのか? まあいいや、次は七瀬」
七瀬  「こんにちは。まさか落し物として出演するとは思わなかったよ」
NANA「アハッ、そうだね」
慎吾  「まあいいじゃないか。おかげで三人一緒に暮らせるようになったんだし」
七瀬  「そうですね。ボクも姉さんや慎吾さんと一緒に暮らせて楽しいですし」
NANA「私も、慎吾君と七瀬と三人で暮らすのってすごく嬉しい!」
慎吾  「じゃあいい感じになったところで、終わりにするか」
NANA「はーい」
七瀬  「……あの、誰か忘れてませんか?」
NANA「あれぇっ、そうだっけ?」
慎吾  「忘れてないさ、誰もな」
七瀬  「そうかなぁ……?」
慎吾  「七瀬、お前身体が弱いんだから早く帰ろうぜ」
七瀬  「そうですね、少し疲れてきたし……」
NANA「お疲れさまでしたー」

慎吾  (……忘れちゃいないけど、呼ばなかっただけだ)