秘密の日記を見ませんか?〜お母さんの場合〜
私は人様に名乗れるほど立派な者ではありません。神崎家当主の妻という人形であり、愚かな母です。
そう、愚かです。まさか姉がこんな人間だったとは知りませんでした。
姉さんはいったい七海と七瀬をどうするつもりなのでしょう?
とにかく、七海を七瀬として鷹宰学園に編入させる訳にはいきません。
七瀬も看護婦がどうのと屈折した性癖をどうにかせねばなりません。
姉を止めなくては――子供達を救わねば――。
決意を固めた私は、姉の日記を胸に抱いて立ち上がりました。
カチャン。
かちゃん? 何の音でしょう、私は振り返ります。
襖が閉まっていました。
悪寒が走ります。
なぜ閉まって?
駆け寄ります。
襖に手をかけます。
開きません。
掛け金が――?
さっきの音は。
まさか。
「いけない子ね」
襖の向こうから声。
姉の声。
「もっとも――昨晩は興奮して、つい日記を置き忘れてしまった私も悪いのだけれど」
「姉さん!? あなたは、いったい――」
「うふふ、安心しなさい。七海も七瀬も私が幸せにして上げるわ。
七海はドラマチックな恋愛――七瀬は私を超える萌え萌え人間に――」
「何を言っているの姉さん! それに萌えって……看護婦と草木が芽吹く事に何の関わりが!?」
「あなたは知らなくていいのよ、一般人のあなたは。
そうそう、七海はこの後どういう道を歩もうとも、恐らくここへは戻ってこないわ。
だからしばらくは、あなたがこの離れで暮らしてね」
「姉さん!?」
「今日はいよいよ七海の処女消失、日記を取りに戻ったのだけど、
仕方ないから日記は新しく買う事にするわ。早く戻らないと慎吾さんとの初対面が終了しちゃう。
それではごきげんようー」
「姉さーん!」
こうして――私は離れに閉じ込められる事となりました。
襖は力いっぱい体当たりしてもなぜか壊れず、脱出は不可能だったのです。
これから私はどうなってしまうのでしょう?
そして七海は、七瀬は――。
もしかしたら姉に操作され、姉が望む幸せな日々を送るようになるのかもしれません。
不幸になるよりはマシだと自分を慰めながら、私は解放の日を待ちます。
〜終〜
壊れ温子伯母さんの誓い、ここに果たす。
SUMI様