サンタの秘密はユメのナカ?
今の俺にとって、目の前にあるそれは……本来望んでも決して得られない物。
いかに渇望してもそれを物理的に得る余裕がない、分不相応な存在。
けれど。
それは今間違いなく、俺の所有物としてテーブルの上に置かれているのだ。
人間が持つ原始的欲求に導かれ、それに手を伸ばす。
ブスリとそれを突き刺し、眼前へと運び寄せる。
「いっただっきま〜す!」
肉汁の滴るステーキの肉片に食らい付き、俺は至福の笑みを浮かべた。
「美味いっ!」
俺達は今、ボーリング場近くのファミリーレストランにいる。
俺が注文したのはステーキセット。
今の俺の経済状況からしてとても注文出来る代物じゃない。
しかし、敗者達のおごりだから問題ない。
ライムが財布の中を覗いて暗い表情をしているけど、とりあえず気にしない。
なぜなら財布から顔を上げてすぐ、ニコニコと笑い出したからだ。
「NA〜NAぁ。それ美味しそうやな、うちにも一口頂戴」
NANAの隣を陣取ったライムは、身体を摺り寄せながらおねだりをしている。
…NANAの事をあきらめたとはいえ、やっぱりNANAにじゃれつきたいらしい。
いや、もしかしたら俺を挑発しているのかもしれない…さっきからチラチラと俺の方を見ているし。
ライム。何を期待しているかは知らないが、俺はみんなの前でおホモ達と誤解されるような行動を取る気はないぞ。
それに、何だかんだいってNANAはライムにじゃれつかれて喜んでるみたいだからな。
NANAにとって初めて出来た『女の子の友達』のライム…。
俺と一緒にいる時間も大切だろうけど、ライムと一緒の時間もまた大切なんだと思う。
だから今は、NANAとライムの事は放っておく事にした。
ライムに絡まれてやっかい事を起こしたくない…という気持ちが無い訳じゃないけど。
そういえばライムがNANAの隣に座ったように、みんな誰かの隣を狙って座ろうとしたんだろうか?
美月と若菜ちゃんはしっかりと隣同士に座ってるし、太陽は若菜ちゃんの隣に座ろうとして失敗したし。
若菜ちゃんが俺の隣に座っているし…。
若菜ちゃんは男の人が苦手だから、美月は気を利かせて太陽が隣に来ないよう邪魔したみたいだけど、
それが…何で俺の隣になるんだ?
確かに若菜ちゃんとは面識があるから他の男よりはマシだろうけど、澪ちゃんだっていたのに…。
若菜ちゃんは緊張しているのか、俺の隣でうつむいたままだ。
そして若菜ちゃんの前に置かれた焼き鳥セットが、白い湯気をゆらゆらと昇らせている。
「若菜ちゃん、早くそれ食べないと冷めちまうぜ?」
「は、はいっ! その…た、食べますっ!」
と、若菜ちゃんは慌てて食べ始める。
美月はラーメン(勝ち組が頼んだメニューに比べ安い)をすすりながら、残念そうに口をへの字にした。
どうやら美月も、俺と同じ事を考えているようだ…。
(若菜ちゃん、早く男の子に慣れるといいなぁ)
俺はパクリとステーキを口に運んだ。