サンタの秘密はユメのナカ?





 勝負事が好きな奴がいる。
 だから、こうなる事は必然だったかもしれない。
 そこには設置されていたのだ。
 いや、今ではほとんどの所にそれが設置されているだろう。
 再び訪れる危機を、俺は感じていた。
 敗者に自由意思は無い。
「と、ゆ~訳で…一番点数が低かった奴は、一番点数の高かった奴の命令を何でも1つだけ聞く事っ!」
 と、太陽がハリきって言った。
「じゃあ一番手はこの俺からいくぜっ!」
 と、太陽はハリきってマイクを握り締めた。
 音楽が流れる。
 俺達は今、カラオケボックスにいる。
 当初の予定ではみんなで好き勝手歌うだけだったのだが、採点機能が付いていると解った途端、
 太陽とライムが勝負を持ちかけてきた。
 何でクリスマスだってのにカラオケ勝負なんかしなきゃなんねーんだ…いや、クリスマスだからこそか。
 まあ適当に一曲歌って、ドベにならないようにだけはしておこう。
 どうせ、太陽か美月あたりには勝てるだろうし。
 と思っていると、さっそく太陽の歌が終了した。
 点数は100点満点中…プッ。
「太陽、惜しかったな。49点だ」
「畜生~、今日は50点越える自信あったのによ~」
 これなら期待出来そうだな。






 それから何度か、みんなは得点を競い合いながら歌った。
 光と澪ちゃんはさすがというか、つねに80点以上の高得点を出している。
 若菜ちゃんは声の大きさこそ低いものの、音程がバッチリなおかげで最高88点という成績を出した。
 美月は…まあ上手くも下手でもなく、平均60~80点といったところ。
 俺は何を歌うか決めかねていて、まだ一度もマイクを握っていない。
 そしてNANAは、歌う事をためらっていた。
「NANAはなんの歌にするん?」
「え~と…まだ考え中」
 NANAは苦笑を浮かべながら、今歌っている太陽をチラリと見た。
 そして、恥ずかしそうにうつむく。
「NANA…もしかして、人前で歌うのが恥ずかしいんか?」
「う、うん…だって、カラオケなんて初めてだし…」
 そっか。NANAの奴、恥ずかしくて歌えなかっただけか。
「でもNANA、一曲くらい歌っておかないと、不戦敗になっちまうぜ?」
「うう…それは嫌! でも…やっぱり恥ずかしいよぉ……それに、歌なんて全然知らないし…」
 こう見えてもNANAは負けず嫌いだから、本心では歌いたいんだろうな…。
 うつむきながらも、NANAは必死に歌のリストが書かれた本をめくる。
 歌を全然知らないっていうのは本当みたいだ。
 NANAはネットでしか外の世界を知らなかったのだし、あの人が最近の歌をNANAに聴かせるだろうか?
 あの人もそういうのには疎いだろうし、着物を着た淑女とCDショップなど似合わない。
「…そうや、いー事思いついたわ」
「ライム?」
「ちょっと待っとり」
 ライムは光が持っていたリモコンを奪い取ると、勝手に選曲番号を入力し、送信。
 ちょうど太陽の歌が終わったところだった。
 その点数は…。
「やったっ! 70点だぜっ!!」
 悪ぃ。せっかく良い点数出せた歌だったのに、全然聴いてなかった。
 それにしても、70点か…俺もちょっとは真面目に歌わないときついな。
 はしゃぐ太陽を無慈悲に押しのけ、ライムはマイクを奪い取った。
「たかが70点ごときで騒ぐんやない。ちょっと、そこのボンボン。こっち来ぃ」
「ぼ、ボクの事か?」
 ライムは2つあるマイクのうち片方を光に投げ渡すと、ニンマリとNANAに笑いかける。
「NAーNA、よぉうち等の歌聴いとり」
「う、うん…」
「待ちたまえリーガン君、なぜボクが…」
「うるさい黙りぃ。あんたはおとなしく、うちとデュエット歌っとればいーんや」
「でゅ、デュエットっ!?」
「ホレ、曲が始まった。準備はええか?」
 問答無用で、ライムと光のデュエットが始まった。
 ライムが選曲したのは、有名なラブソングだ。
 そういえばライムが歌うのは、これが初めてだったな。
 ハリウッドスターを目指し、すでに事務所とも契約を済ませているライムの歌唱力は、まさにプロ顔負けの上手さだった。
 最初は戸惑いがちだった光も、ライムに引っ張られて歌に熱がこもる。
 みんなは黙って2人のデュエットに耳を寄せていた。
 本当に上手だった。
 歌が終わり、得点はなんと90点。
 NANAが拍手を始めると、みんなも2人に拍手を送った。
「ライム、お前すげーじゃん」
「ま、これがうちの実力や。NANA、うちの歌ちゃんと聴いとった?」
「うん! ライムちゃん、すっごく上手だったよっ!」
「じゃ、真似て歌えるな?」
「へ?」
 ライムは光からマイクを奪い取り、俺へと投げ寄こした。そして、自分が持っていた方をNANAへ。
「次はあんたとNANAのデュエットやっ!」
「何ぃ!?」
「慎吾君と…?」
「そや。慎吾と一緒なら、NANAも歌えるやろ?」
 ライムは再びリモコンを手に取り、さっきと同じ番号を入力する。
「ま、待てって! 俺はまだ…」
 言葉の続きは、ライムの鋭い眼光によってさえぎられた。
 そして、NANAの期待と不安に満ちた瞳に。
「…解ったよ、歌えばいーんだろ歌えば」
 曲が流れ始める。
 マイクを口元へと近付ける。
 歌が、始まる。
 最初はどもりがちだったNANAだが、しだいにスムーズに舌が回り出した。
 俺との呼吸もピッタリと合い、俺もリラックスして歌う事が出来た。
 不思議な一体感。
 歌がこんなに楽しいだなんて、初めて知った。
 いつまでも歌い続けたい。
 ライム…ありがとな。



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