サンタの秘密はユメのナカ?





 カラオケボックスから出た俺達を出迎えたのは、やはり冷たい北風。
「あー、楽しかった」
「そうだな、特に最後のライムの歌…すごく良かったよな」
「しかし、まさか100点満点を出すとは…リーガン君の意外な一面を垣間見たよ」
「意外とはなんや」
 文句を言うライムだったが、その口調はおどけたものだった。
 そうとう機嫌が良いらしい。
 NANAに勝つ自信はあったようだが、まさか100点満点を取るとは自分でも思っていなかったみたいだ。
「…そろそろ時間ね」
 澪ちゃんの呟きが、パーティー終了間近だと俺達に告げる。
「じゃあ時間になる前に、最下位の奴にうちの命令聞いてもらわんとな」
「ゲッ…」
 太陽は思わず声を漏らした。
 そりゃ、ライムの命令となるとかなり恐いだろうな。
 ドベは結局、70点の太陽となった。
「し〜ん〜ご♪ それじゃあさっそくうちの命令聞いてもらおか」
「…は? ちょっと待て、70点の太陽が最下位だろ?」
「いや、一度も歌ってないあんたが不戦敗や」
「歌っただろ、NANAとデュエット」
「2人で歌ったからノーカウント」
「…ちょっと待て、聞いてないぞそんな事」
「言うまでもない当然の事やろ」
 くっ…確かに2人で歌ったんだから、ライムの言葉に理はある。
 しかし…このままではライムの命令を聞かなくてはならない!
 俺とNANAの関係を誤解(ある意味正しい)しているライムの事だ。
 きっととんでもない命令をしてくるに違いない。
 頼む! これ以上誤解を招くような命令だけはしないでくれっ!!
「ど、どんな命令をする気なんだ?」
「フッフッフ…」
 意味深に微笑むライム、絶対に何か企んでやがる…。
 ライムは自分の鞄を開き、中から包みを取り出した。
 包みを突然投げ渡され、俺は慌ててキャッチした。
 軽い。中にはふわふわした物が入っているみたいだ。
「な、何だよコレ…?」
「うちからのクリスマスプレゼントや」
「な…」
 沈黙の瞬間。
 一瞬が永遠に引き伸ばされる。
 ライムの言葉を頭の中で反芻する。
 クリスマスプレゼント。
 ありえない。ライムが俺にクリスマスプレゼントを?
 その行為が何を意味するのか…。
「そうか。リーガン君は橘に気があったのか…」
「「んな訳あるかっ!!」」
 光の的外れで馬鹿らし過ぎる発言に、俺とライムは声をそろえて怒鳴り返した。
 どうしてライムが俺にプレゼントをくれるのかは知らないが、それだけは絶対にありえない。
「ったく…ええかっ!? これはあくまでうちが慎吾に命令するための小道具や。
 正確に言うと慎吾へのプレゼントやないのっ!」
 …どういう意味だ。
「とにかく、その中のもんを後で確認しぃ! そうすればどんな命令かは解る。
 ええか…絶対に命令には従うんよっ!! もし従わへんかったら…言いふらすで」
「い、言いふらす…って何をだよ?」
 ニンマリと笑って、
「いい加減にしろっ! 黙って聞いてれば1人でベラベラと…」
 と、突然男言葉…しかも標準語で喋り出すライム。
 …ん? このセリフ、どこかで聞いた事が……って、まさかこれは!?
「お前に言われなくても、NA……」
「わあぁ〜〜〜〜〜〜〜〜っ!! 言うなっ! 頼むその先は言わないでくれっ!」
 こ、こいつ…あの時言った俺のセリフ、完璧に覚えてやがったのか!?
 ライムがまだNANAを追っかけていたあの頃。
 ライムがNANAをあきらめる原因を作ったあのセリフ。
 男の俺じゃあ、NANAに何もしてやれない。
 大事に愛してやる事なんか、どうせ出来やしない。
 そんなような事を言われてカッとなった俺は、取り返しのつかないセリフを言ってしまった。
 NANAが、男の子として鷹宰学園に通っている事を忘れて。
 俺の記憶が確かなら、ライムが言おうとしたセリフはこうだ…。

 ――お前に言われなくても、NANAの事ならとっくにたっぷり可愛がってやってるよっ!!

 ライムがNANAをあきらめ、俺達の仲を祝福し、そしてとんでもない誤解を招いてしまった原因。
 くっ…なんであんな昔の事を、こんな鮮明に覚えてるんだこいつは。
 会心の笑みを浮かべるライムと、首をかしげて俺達を見つめるみんな。
「気になるわね。ねえリーガンさん、今のってもしかして慎吾のセリフとか?」
 グハッ! さすが美月…新聞部員だけあって洞察力がある。
「橘君、いったいリーガンさんに何を言ったの? それほど人に知られたくないような事を言ったのかしら」
 グハッ! 澪ちゃん…それ以上推理をしないでくれ。
「ムムム…慎吾君とライムちゃんがボク抜きで会った事なんて数えるほどしかないっていうのに。
 いったいいつ、どこで、何を言ったのさ? ボクにも秘密にしておきたいような事なの?」
「そ、それはだな…」
「ごめんなぁ。さすがにこればっかりはNANAにも言えへんわ。うちと慎吾だけの秘密っちゅう事で」
 ますます誤解を招くような事をサラリと言ってのけるライム。
 もう勘弁してくれ…。
「じゃ、そーゆー訳でバラされたくなかったらうちの命令に従う事」
「…解ったよ」
 ライムの命令って…いったい何なんだろ?
 とりあえず今は…。
「ねえねえ、いったいライムちゃんと何があったのさ!?」
「リーガンさ〜ん。慎吾の弱味を握るためにも、あたしにだけこっそり教えてよ」
「橘、もしや婦女子に向かってとてつもない暴言を吐いたのではあるまいな?」
「慎吾〜、お前いったい何やらかしたんだ?」
 こいつらを何とかしないとな。




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