サンタの秘密はユメのナカ?

 みんなまだ騒ぎ足りなかったようだが、時間切れとなり強制的に解散となった。
 光と澪ちゃん、それに若菜ちゃんも、あまりのんびりしている訳にはいかない。
 ライムは早く戻らないと、兄が心配して迎えに来るとため息をついていた。
 別れ際、ライムが俺に耳打ちをした。
「後でNANAに確認とるから、ちゃんとうちの命令聞くんよ。袋はどこか落ち着ける所で適当に開けばいいから」
 解散後、俺とNANAが2人で会う事は完璧に見抜かれていた。
 表向きには俺もNANAも解散時に別れ、みんなが立ち去ってからすぐに解散したその場へ戻ろうとする。
 道のど真ん中で立ち止まり、踵を返そうとした瞬間。
「ちょっと、どこ行くのよ?」
 美月がいぶかしげに首をかしげた。
 実家が近所の俺達は、当然帰り道も一緒。
 当然向かう駅も、乗る電車も同じ。
 だけど、美月と一緒に帰る訳にはいかないんだよなぁ…。
「言ってなかったか? 俺、2〜3日こっちに泊まってから帰るんだけど」
「何よそれ? こっちに泊まって、いったい何をするっていうのよ?」
 NANAと一緒にクリスマスを過ごすんだよ。
 とは言えない。
 姉貴にも問いただされたけど、俺が返答に困っている様子を見て、

 ――もしかして、コレ?

 と、小指を立ててニヤリと笑い、それ以上訊いてこなかった。
 察しのいい姉貴で助かる反面、隠しておきたい事がバレてしまい複雑な気分だ。
 美月に「彼女とホテルに泊まる」なんて説明しても、どうせ信じないだろうしな。
「人と会う約束してるんだよ」
「誰? まさか、女の人じゃないわよね?」
「んな訳ねーだろ」
 じろ〜、という音が聞こえてきそうなくらい、美月は眉根を寄せて視線を送ってくる。
 姉貴ほどじゃないにしろ、さすが新聞部員だけあって勘が鋭い。
 ったく…どうして俺の回りの女の子にはこう強い奴が多いんだろ?
 ま、ライムよりはマシか。
「怪しい…」
「美月、早く行かないと電車に遅れるぞ?」
「少しくらい遅れたって平気よ」
 まいったな…何とかして美月をまかないと、NANAを待たせちまう。
 しかし美月の疑惑と好奇の光は、その瞳から消える気配が無い。
 俺は大きくため息をついた。
「あのな美月、俺はただこっちで遊ぶ約束してあるだけなんだよ。
 ネットで知り合った奴だから、別に話す事もないだろうと思って」
「それ、ホント?」
「ああ」
 嘘は言っていない。
 NANAとの出会いはメールフレンドを募集するサイトだったし、解散後に遊ぶ約束もした。
「せっかくのクリスマスなのに、家に帰らないつもり?」
「ああ。もう子供じゃないんだし、クリスマスも好きにやらせてもらうさ」
「…そう」
 美月が残念そうに少しだけ口元を歪めたのを見て、俺はある作戦を思いついた。
「あ、もしかして美月。俺と一緒に帰れなくて寂しいのか?」
「な…」
「しばらくしたらちゃーんと俺も家に帰るから、それまで寂しくても我慢しろよな」
「さ、寂しい訳ないじゃないっ! あんたがいない方が気楽にクリスマスを過ごせるわよっ!!」
「とてもそうは見えないけどなぁ…美月も何だかんだ言って可愛いとこあるじゃん」
「勝手に変な解釈をしないっ! あたしは別に、あんたがいなくたって全然平気なんだからっ!」
「じゃあ1人で帰っても平気なんだな?」
「当たり前じゃない。じゃあね、あんたはこっちで好き勝手遊んでなさいよ」
 作戦成功。
 美月はくるりと向きを変え、スタスタと歩き出す。
 悪ぃな、美月。
 帰ったら姉貴や峰央も混ぜて、馬鹿騒ぎでもしようぜ。



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