サンタの秘密はユメのナカ?
「これ…手編みだよね」
「…え?」
言われるまで気付かなかった。
そうだ、手編みじゃなきゃ俺とNANAの名前が編み込まれているのはおかしい。
あまりに綺麗に編まれているので、とても素人が作ったようには見えなかった。
俺とNANAのために、クリスマスに間に合うよう、ライムはこのセーターを編んでくれたのか…。
迷いは消えた。
「NANA。このセーターに着替えてみるか?」
「うんっ!」
公園のトイレで着替えをすまし、俺はベンチに戻った。
NANAはまだ戻ってきていない。
ジャケットで胸元を隠しながら、白いため息を吐く。
身体を包むあたたかい手編みのセーターは、羞恥心を刺激する諸刃の剣だ。
NANAとライムのためと思い、自分を納得させる。
まあジャケットの前を閉めればすむ問題だが、ライムの心意気を無にしてしまうのは気が引ける。
トイレに視線を向けると、NANAがこちらへ走ってくるところだった。
コートの前を大きく開いており、まるでセーターのハートマークを見せびらかしているかのようだ。
NANAは俺の目の前で立ち止まり、胸を張ってセーターを見せつけてきた。
「えへへ〜。どう、似合う?」
「…ああ、すっげぇ良く似合うよ」
「ありがとう! 慎吾君もすごく似合って、かっこいいよ!」
「…ああ、ありがとう」
あまり嬉しくない褒め言葉だな。
俺は再び白いため息を吐いた。
かなり恥ずかしいペアルックだけど、知ってる人に見られる心配がないのは不幸中の幸いだ。
もし光や太陽の前にこの姿を見られたら、おホモ達確定になっちまう。
(すでにあいつらの中では確定しているかもしれないが……)
もしライムに見られたら、大喜びされて冷やかされる事間違いなしだ。
少しはプラス思考になろう。
恥ずかしすぎるペアルックだが、この姿を見るのは俺とNANAだけだ。
そう。俺とNANAだけ…………じゃねぇっ!
ハッと腕時計へ視線を下ろす。
時刻は午後6時。という事は、後1時間で…。
「慎吾君、どうしたの?」
目の前を白いものがかすめる。
顔を上げると、NANAが白い息を吐きながら時計を覗き込んでいた。
「あ、いや…何でもない」
俺は力なく応えた。
ライム…NANAを想って色々してくれるんだろうけど、少しは俺の事も考えてくれ…。
俺はもう一度、白いため息を吐いた。