サンタの秘密はユメのナカ?
ドアの先は真っ暗な空間だった。
手探りでスイッチを探し、明かりを点ける。
部屋は実家の居間よりも広く、調度品も一目で高級品と解る。
真っ白なシーツの敷かれたベッドは、小さな戸棚とランプを挟んで2つ並んでいる。
実際に使うのは1つだけなんだけど。
俺は鞄をソファーの上に置き、ここに来てやっと上着を脱いだ。
窓に視線を向けると、壁一面のガラスに室内の様子が映っていた。
恥ずかしいセーターを着た情けない姿の俺。
その後ろで、NANAが部屋の中をキョロキョロと見回している。
「わー。とっても素敵なお部屋だね」
「そうだな。寮と比べたら天と地だ」
ガラスの中でNANAが微笑む。
「でもボク、寮のお部屋の方が好きだな」
「そうか?」
「だって、初めてキミに会って…一緒に暮らしている場所だもの」
「…そうか」
普通の女の子ならお金のかかったプレゼントや場所を喜ぶんだろうけど、
NANAはそんな事…本当にどうでもいいみたいだな。
お金なんて関係ない。
好きな人からのプレゼントなら、好きな人と一緒にいられるなら、本当にそれだけで十分なんだろう。
けど男の立場から言わせてもらうと、少しはこっちにも格好付けさせて欲しいんだよな。
「NANA。悪いけど電気消してくれないか?」
「え? 寝るにはまだ早いんじゃ…」
「いいから電気消して、こっち来いよ」
俺の言葉にNANAは頬を赤らめると、恥じらうように微笑んだ。
「う、うん。解ったよ…電気、消すね」
どうも勘違いさせちまったみたいだけど、まあいいか。
数秒と経たないうちに部屋の明かりは消され、背後からNANAの足音が近付いてきた。
足音がすぐ後ろまで来ると、俺は背を向けたまま逃げるように歩き出す。
するとNANAも慌てて俺の後を追ってきた。
俺は窓の前で立ち止まり、少し遅れてNANAもやって来る。
「NANA、外…見てみろよ」
「外…?」
NANAは俺の隣に立つと、言われるがまま窓の外を見た。
「わぁ…」
ホテルの最上階から見下ろすと、そこには星の海が広がっていた。
幾千の光が街を埋め尽くし、瞬き、流れている。
星の海と星の空。
2種類の光が生み出す芸術に魅了され、NANAの瞳に光が映る。
手のひらを窓に押し付け、時折感嘆の声を漏らす。
少し感動しすぎかなと思ったけど、これは仕方のない事だろうな。
外の世界を知らなかったNANA。
今までこの美しい光景を見るどころか、想像する事すらなかったのかもしれない。
そんなNANAがかわいそうで、愛おしくて、俺は彼女の肩にそっと腕を回し抱き寄せた。
「NANA…綺麗だろ?」
「うん…私、こんな綺麗なものを見るの…生まれて初めて」
「…良かったな、NANA」
「慎吾君、ありがとう」
NANAは美しい世界から目をそらし、俺の瞳を覗き込んできた。
俺もNANAの瞳を見つめ返す。
2つの視線が絡まり合い、その距離が縮まる。
今まで何度もしてきた事をするだけなのに、鼓動が高鳴る。
NANA…。
俺を愛しているNANA。
俺が愛しているNANA。
そんなNANAの唇が、ゆっくりと、ゆっくりと近付いてくる。
もう窓の外の光なんて目に入らない。
互いの瞳に映るのは、愛しい人の瞳。
クリスマスイブの夜。星と街のかすかな光が照らす、暗いホテルの一室で。
俺とNANAは静かに唇を重ね……。