ブロンド台風注意報!







「ブロンド台風注意報!」





「あと一週間でクリスマス、かぁ…。」
やたら眩しく光る飾りつけ、店先に飾られる小さなツリー、
そして手をつないだり、腰に手を回したりしながら歩く、バカップル。
やっぱ商店街も、この時期になると一気に騒がしくなるんやなぁ…。
大きくため息をつきながら、うちはある男の子の顔を思い浮かべる。
神崎 七瀬くん──通称NANA──うちがこの世でもっとも愛しとる、
とてつもなく可愛らしい男の子や。
一歩間違えれば女のコと見てとれるくらいの美少年、
というか女の子が男装しとるんちゃうか、とも思えるくらいや。
そんな可愛らしい外見に加え、声も性格も、めっちゃ可愛い。
そのNANAの可愛らしさに、うちはもうメロメロなんよ。
というわけで、うちは今回のクリスマス、NANAにプレゼントを渡そうと思っとる。
そのプレゼントを選ぶためにわざわざ、寒い中を商店街くんだりまで足を伸ばしたわけやが…。
「な〜んか、ええのが見つからんなぁ…。」
スポーツ用品を売っとる店、トレーニング機器を扱う店、
エロビデオ専門店…なんでこの通りにはこんな店しかないの?
正直、NANAには男らしいものは似合わんと思う。
トレーニングのための道具なんてもっての他や。
あんな可愛い系の男の子は、華奢やからこそ輝くんよ?
それを台無しにするのは、天が許してもうちが許さん。
エロビデオを見て、他の女に欲情されるのはもっと嫌や。
っていうかNANAがそんなん見とるとこなんて想像もできんなぁ。
あの橘 慎吾とか、スポーツ特待生やったら、こういうとこをウロウロウロウロしてそうやけど(笑)
「お、この店なんかええかもしれんな〜。」
なにやら可愛らしい店構えに、看板には英語で『fancy shop』と書いてある。
……えっと…ファンキーショプ??
…今度からはもちっとまじめに英語の授業聞いとこ。
まぁええ、とりあえず、入ってみるか。





「う〜ん、ええ買い物したな。」
どうやら『ファンシーショップ』と読むらしい。
そんな名前と外見どおり、店の中は可愛い小物やぬいぐるみで一杯やった。
その中から、抱っこして担がんと持てらんくらいの
大きさの熊のぬいぐるみをGETした。
つぶらな瞳、小さく可愛らしい手、ふかふかした手触り。
これにNANAが笑顔でギュッと抱き着くところを想像しただけでもう…。
「ああ〜ん、たまらんわ〜♪」
急に悶絶しだしたうちを、通行人が驚いた表情で見てくるけど、
そんなことは問題にならんくらい、今のうちは御機嫌や。
NANA、喜んでくれるやろな〜。
『ありがとう、ライムちゃん。お礼に、ボクの一番大切なものをあ・げ・る♪』
とか言われたりなんかしたりして〜!!
「ああ〜ん、NANAったら〜ん。
そういう台詞は、女の子の特権やで〜。」
みだらな妄想に、体をくねらせながら歩いとると、
普段気づかんかった横道にふと目が止まる。
こんなとこに、横道なんかあったんか…?
見た感じ、店がずっと続いとるようやけど、どうにも怪しい。
もしかしたらイカガワシイ商品でも売っとるんとちゃうやろか?
「…それはそれで、ええかもしれん。」
怪しさよりも邪な感情が勝ってしまったうちは、横道へと入っていった。
それも、奥へ、奥へと…なぜか、他の店には目もくれず、
ただひたすら一番奥の店へと向かっていった。
その店は見るからに怪しさ爆発で、なぜか窓には暗幕が引いてあった。
どんよりとした空気を醸し出し、まるで『売ってはいけないもの』を売っとるような…。
そんな雰囲気に惹かれ、うちは店の中へと入っていった。
そして、そこで目に飛び込んできた品物を見た瞬間、
うちは…悪魔に心を売ってしまった…。





クリスマス当日の放課後。
学園内でプレゼントを渡すわけにはいかんから、
うちは男子寮へと続く道の途中でNANAを待ち伏せることにした。
で、来たところへでっかい包装紙で包まれた熊のぬいぐるみをプレゼントっちゅう寸法や。
当然のことながら、こんなでっかい熊を学校には持っていけらんから、
終わって猛ダッシュで女子寮に帰り、そのままここまで来たっちゅうわけや。
さすがに死ぬかと思ったで…。
と、待ち伏せること20分。
『あ〜、今日も楽しかった〜♪』
『そっか?俺は今日もいつもと変わらないと思うが。』
ようやく、NANAの可愛らしい声がうちの耳に入ってきた。
もちろん、あの憎き橘 慎吾の、耳障りなことこの上ない声まで無断で入ってきおった。
なんでいっつもNANAと一緒におるんや…ウザ。
橘 慎吾に憎しみの炎を燃やしとると、
うちが隠れとる曲がり角までNANAの足音が近づいてきた。
よし、出るなら今や!!
「NANA〜、めり〜くりすま〜す♪」
「キャッ!?」
「キャッ、やて、もう可愛いなぁ、NANA〜♪」
「ゲッ、ライム・リーガン!?」
「なんやねん、人の名前フルネームで呼びおって。文句でもあんの!?」
NANAの愛らしい声に喜んだのも束の間、
つい橘 慎吾に思わずガンをたれてしもた。
あかんあかん、こんな乱暴な態度やったらNANAに嫌われてまう。
「NANA、これ、うちからのクリスマスプレゼント。受け取ってくれる?」
「えっ?これを、ボクに?」
「そうや、うちがプレゼントをあげるんはNANAだけやで?」
「で、でも…本当にいいの?」
「もう、NANAったらくどいで〜。ほら、あけてあけて。」
うちが強引にでっかい熊をNANAの手に渡すと、
NANAはあきらめたのか、包装紙をはがしていく。
ああ、楽しみやなぁ、NANAが嬉しそうな笑顔を見せてくれるのが♪





「うわぁ…おっきな熊さんだ!可愛いっ!!」
「な、NANA、あんまりはしゃぐと…ばれちまうぞ。」
「だって、すっっごく可愛いんだよ、この熊さんのぬいぐるみっ!
慎吾くんも、可愛いと思うでしょ?思うよね?思わないはずがないよね!?」
「そ、そりゃ確かに可愛いとは思うが…。」
「そうだよね、可愛いよね♪」
いや〜ん!!
見事なくらいにうちの予想どおりの仕草っ!!
可愛いっ、めっっっっっっっちゃ可愛いっ!!!
小柄なNANAやったら、絶対この熊のぬいぐるみと同じくらいの大きさやと思とったけど、
ほんまに同じくらいの大きさやったとは…。
そんな小柄なNANAが、大きな熊にギュッ♪と抱きつくその仕草が、
思わず抱きしめたくなるくらいに愛らしい。
ああ…プレゼントしてよかったなぁ。
「ねぇライムちゃん、この熊さん、本当にもらっちゃってもいいの?
ボク、お礼なんて何にも用意してないんだけど…。」
「そんな、気にせんでもええよ。
でも、気になるっていうんやったら…せめて、抱きしめてほしいなぁ。」
「えっ、だ、抱きしめるの?」
「うん、思いっきり、ぎゅ〜っと抱きしめてほしいな〜。」
うつむき加減で、モジモジしとったNANAが、ゆっくりうちに近づいてくる。
そんなNANAを見て、うちは心の中で『よっしゃ!!』とガッツポーズを取った。
「こ、これでいいの…かな?」
うちよりもやや小柄なNANAが、その細腕でうちをギュッ♪と抱きしめる。
細く、それでいて柔らかい体。
うちをまっすぐ見つめてくる、大きな瞳。
きめの細かい肌に、サラサラな髪。
ほのかに香る、シャンプーの甘い匂い。
こんなにも可愛らしい男のコがおるなんて、いまだに信じられん。
「ね、ねぇ…いつまでこうしてればいいの…かな?」
「永遠に♪」
「そ、それはちょっと。」
う〜ん、やっぱ無理か…確かに、こんな道の往来で抱き合うんは無理があったかな。
「そやな、ほな残念やけどこれくらいでええわ。
この続きは、また今度っちゅうことで♪」
「つ、続きなんてないよ〜。」
照れながらも、NANAがうちから離れていく。
はぁ…ほんまに残念や。
「ほな、うちはこの辺で退散するわ。」
後ろ髪を引かれながらも、うちは女子寮へと足を向けることにした。
…さぁ、うちのクリスマスはこれからが本番や…。



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