「目指せ、80センチ後半!」
電柱の陰にこっそり身を隠し、慎吾の後をこっそりついていく。
気分はすっかり刑事気取りだ。
しかし、やっていることは単なるストーカーなのだが。
そんなことを続けていると、慎吾はとあるパン屋の前で足を止めた。
どうやら、この店に用があるようだ。
店の名は『月島ベーカリー』
普段、慎吾がボランティアで働いている場所である。
「そう言えば…美月ちゃんの情報だと、
ここで花梨ちゃんっていう女の子と一緒に仕事してるって…。」
慎吾が店の中に入っていくのを確認した若菜は、
店の入り口付近に身を潜め、中の様子を伺い始めた。
こっそり覗いてみると、慎吾がオレンジ色の髪をツインテールにまとめた
小柄な女の子と楽しそうに話をしている姿が目に入ってきた。
「あの子が、美月ちゃんの言ってた女の子なのかな?
……あ、ちっちゃい。」
若菜の目はついに、自然と相手の胸へと向かうようになってしまっていた。
いわゆる、末期症状というやつなのかもしれない。
しかし、そんなことに一切気付いていない若菜は、
橘くんも、単に巨乳好きというわけじゃないのかな?
などと、安堵のため息を吐く。
『ところで、お兄ちゃん。訊いてくれた?
その…胸が大きくなる方法。』
安心しきっていた若菜の耳に、またもや胸についての話が入ってくる。
『ああ、訊いたんだけどさ、やっぱ答えてくれなかったよ。
危うく蹴り倒されそうになったり、先生に訴えられかけたりして…散々だったぜ。』
『そうなんだ…ごめんねお兄ちゃん、花梨のせいで。』
『いや、別に構わないよ。
でも、どうして胸が大きくなりたいなんて思ったんだ?
それに、自分で調べたらいいのに、わざわざ俺に頼んだりさ。』
『え〜、それは言えないよ、秘密!
そうだ、お兄ちゃんに頼んだ理由は言えるよ。
あのね、鷹宰の女の子はボインボインが多いって聞いたからだよ。』
話の内容からして、どうやら花梨が、胸が大きくなる方法を
鷹宰学園の女生徒に訊いて欲しい、と慎吾に頼んだらしい。
それを聞いた若菜は、胸の大きさで悩んでいるのは自分だけじゃないんだ、
などと少し安心した表情をする。
「でも…結局、胸が大きくなる方法、わからなかったなぁ…どうしよう?
このままじゃ、橘くんに告白する勇気が持てないかも…。」
落ち込んでいる若菜の耳に、慎吾の言葉が入ってくる。
『あ、でもさ、確か男の子に揉んでもらうと大きくなるって聞いたことあるぜ?
なんなら、試してみる?なんてな♪』
『やだもうお兄ちゃんったら、セクハラ親父みたいだよ〜。』
揉んでもらう…その言葉が、若菜の頭の中をグルグル回り始める。
「も、も、もしかして…美月ちゃんも、須藤さんも、
誰かに揉んでもらって────ハッ!?
まさか美月ちゃん、新聞部の部室で…そして須藤さんは、動物小屋の近くの草陰に隠れて…。
そうだったんだ、だからあの二人、あんなに大きくて。
それに、花梨ちゃんのが小さいのは、揉んでもらわなかったから?」
真実(?)に辿り着いた若菜は、グッと小さな拳を握り締め、
何かを決意したかのように真剣な面持ちで寮の自室へと駆け出していった。