おめでとう×2





 願い事をするのなら、お賽銭はたくさん入れた方がいいのだろうか?
 時折賽銭箱に、お札を投げ込む人の姿もチラホラとある。
 長い行列がゆるゆると進んでいく。
 人込みのおかげで冬の冷たい風はさえぎられ、人の体温が間近にありあたたかい。
 けれどそれ以上に、美月のはからいで慎吾の隣を歩かされている若菜は、
 慎吾に身体が触れるたび体温が上昇していた。
 ちなみに太陽は、慎吾と美月に挟まれた若菜を後ろから見つめている。
 慎吾は若菜とNANAに挟まれ、NANAは慎吾とライムに挟まれ…。
 かなり横に長い集団が人込みに埋もれていた。
 そしてやっと賽銭箱まであと少しとなった面々は、前もってお賽銭を取り出す。
「光、1万円も入れるのかよっ!?」
「フッ…年に一度の初詣なのだ、奮発しないとな」
「いや…俺は昨日姉貴達と初詣行ったから、これ2回目だし」
「うちもや。昨日は家族と初詣行ったわ…」
「なるほど…すでに一度お賽銭を出しているから、今回は5円しか投げ込まないのかい?」
 嫌味のつもりは無いのだろうが、光は自分だけ1万円札を入れる事に優越感を感じ笑みを浮かべていた。
 けれど。
 澪とライムが財布を取り出したのを見て中を覗くと、お札の束。
 ――もしや彼女達もお札を入れるのでは…。
 しかし光の不安は杞憂に終わった。
 2人が取り出したのは、5円玉。
「ボンボン、知っとるか?」
「ぼ、ボンボン?」

「ご縁がありますように…って意味を込めて、お賽銭は5円玉を入れるんが効果高いんよ」

 ライムの豆知識に、光は1万円札を握る手に力を込めてしわを作る。
「そ、そんなダジャレ聞いた事がないぞ。なあ橘?」
「いや、俺もその話知ってるぜ。俺も美月も、昨日賽銭は5円玉だったし」
「くっ…た、太陽は知っていたのかっ!?」
「おうっ、ガキん時親父が教えてくれたからな」
「か、神崎君は!?」
「初詣に行くって言ったら、お賽銭はご縁があるように5円玉を入れるのよ…って伯母さんから教えてもらったよ」
「くっ…」
 光は歯を食いしばりながら、己の敗北を認めた。
 ちなみにNANAが5円玉の事を知ったのは今朝の事なので、ある意味光と大差はない。
 まあNANAの特殊な育ち方を考慮に入れれば、NANAが知らなかったのは仕方のない事だが。
 というか、こんな豆知識は別に知っている必要はないのだが…変に高いプライドを持つ光にとってはショックだった。
 そして落ち込む光を見ながら、若菜は財布から取り出そうとしていた千円札をそっと戻し…5円玉を探していた。






 それぞれの願い事を胸に5円玉(1人は1万円札)を賽銭箱に投げ込み、
 手を合わせて瞳を閉じ、心の中で願い事を言う。

彼とご縁がありますように
彼と少しでも仲良くなれますように

 片方の瞼を上げ、横目で隣に立って願い事をしている彼を見る。
 彼の願い事は何だろうか?
 それが解るのはきっと彼だけなのだろうと、若菜は思う。
 きっと彼の願い事はとても素敵なものなんだろうと、若菜は思う。
「さあ。後がつかえているのだから、願い事がすんだのなら早くどくとしよう」
「そうだな、行くか」
 男性陣はすぐに願い終わり、とっとと退散を始めた。
 慌てて女性陣も移動を始める。
 太陽を先頭に人込みをかきわけ、はぐれないよう歩いていたのだが…。
「わっ」
 強引に前へ進もうとした参拝客が、慎吾とNANAの間へ割り込む。
 そして次から次へと新たな参拝客が割込み、もみくちゃにされ、若菜達はバラバラになってしまった。
 若菜はせめて美月とだけは離れまいと、親友とつないでいた手に力を込める。
 が、非力な若菜の握力では数秒としないうちに手を離し見失ってしまった。








≫NEXT→