おめでとう×2
一瞬若菜の心臓は止まった。
「…え?」
「だから、好きな人。まあ男女交際は校則で禁止されてるけどさ、人を好きになる気持ちまでは禁止されてないだろ?」
――人を好きになる気持ちまでは禁止されていない。
なんて素晴らしい言葉なんだろうと思い、若菜は胸に深く刻みつけた。
それがライムからの受け売りだとも知らずに…。
「それで若菜ちゃんはどうなのかなーって思って。どう? 好きな人とかっている?」
目の前にいます。
「い、いませんっ!!」
普段の若菜では決して不可能なとびっきりの大声で、つい本音とは逆の事を言ってしまった。
慎吾はちょっと戸惑いながらも、ニッコリと笑顔を作る。
「じゃ、じゃあさ。どんな男の子がタイプ?」
「え…えぇっ!? あのっ…そのっ…」
顔がトマトのように真っ赤に染まり、舌が上手く回らない。
心臓の鼓動が自分でも解るほど高鳴って、今にも倒れてしまいそうだ。
さっきから彼はどういうつもりで質問しているんだろうか?
鈍感な若菜だったが、ある王道的な可能性に気づいた。
もしや、彼が自分の好みの男性を訊いてくる理由はっ…!
「えぇと…その、優しくて…その…」
「ふむふむ。優しくて…ね」
「あ、明るくて…」
「へー、明るい…か。なるほどねぇ」
「それで…その、元気な…人、かな」
「元気かぁ、へーなるほどねぇ。……………………もしかして希望有りか?」
慎吾がとある友人の事を思い浮かべているその隣で、若菜は勇気を振り絞った。
「あ、あのっ! あなたは…そのっ、どんな女の子が…」
「へ? 俺?」
「は、はいっ! その…ぜひ、聞かせてください」
「えーと…そうだな、若菜ちゃんが話してくれたんだし、俺だけ黙ってるのはフェアじゃないよなぁ…」
少しだけ悩んで、慎吾は恥ずかしそうに微笑んだ。
「ちょっと世間知らずで変なところが抜けてたりするけど、すごく素直で純粋で…仔犬みたいな子かな」
「それって…」
美月曰く…。
樋口若菜は世間知らずで、
樋口若菜は変なところが抜けていて、
樋口若菜はすごく素直で、
樋口若菜はすごく純粋で、
樋口若菜は仔犬みたいな子らしい。
絶対にありえないと思っていた。
けれど今日、もしかしたら…と思えるようになった。
希望の光が見えてきた。
胸に秘めた大切な想い…。
もしかしたら、叶うかもしれない。
「あっ、あ…あのっ!」
「ん?」
「あのっ、私…そのっ、私……あなたの、事が…………」