おめでとう×2
「こんな所で何しとんやボケェッ!!」
「うわっ!?」
「キャッ!?」
鬼のような形相で、身体中からオーラを発しながら、ライムは2人の前に現れた。
若菜は恐怖のあまり声を失い、慎吾は死の恐怖というものを知った。
「うちやNANAが必死にあんたの事を探しとったいうんに…なにのんきにアンミツ食うとんのやっ!」
「いや、その、なんだ。これはだな…ここで待ってれば誰か来るかなーと思って…。
美月の奴がアンミツ食いたいっつてたしさ、若菜ちゃんも一緒だったから…人込みの中行くとまたはぐれちまいそうで」
「あぁっ!? そやったらその子をここに置いて、あんただけ神社中探し回ったらええやないのっ!」
「ら、ライム。ちょっと落ち着けって…」
「あんたっ! NANAがどんなに心配してたか…解っとるんっ!?」
「わ、悪ぃ…」
慎吾の顔に反省の色が浮かぶのを見ると、ライムは小さなため息を吐いた。
「今から5分後、あんたらが見つかっても見つからんでも、みんな鳥居の下に集合する事になっとるから…」
「あ、ああ…それじゃあ行くか。これ以上NANAに心配かける訳にはいかないしな」
こうして勇気を振り絞った若菜の告白は、慎吾に想いを伝える前に終わってしまうのだった。
鳥居に向かいながら落ち込んだ様子の若菜を見て、慎吾は思う。
(もしかして若菜ちゃん…まだアンミツ食べたかったのかな?)
美月曰く。
橘慎吾は女心の解らない鈍感野郎らしい。
鳥居の下にはすでに若菜達を除く全員がそろっていた。
ライムが親友と幼馴染みを連れてくるのを見て、美月は誰にも聞こえないよう小さな舌打ちをした。
「慎吾君っ!」
そしてNANAは慎吾の姿を発見すると、パァッと輝きを放つようなとびっきりの笑顔で、
思いっ切り慎吾の胸に飛び込んだ。そんなNANAを、慎吾は優しく抱きとめる。
「慎吾君、ボク…すごく心配したんだからねっ!」
「悪ぃNANA」
照れ笑いを浮かべながら謝る慎吾は、どこか幸せそうだった。
少なくとも、若菜にはそう見えた。
けれど慎吾からはすぐ、その幸せそうな気配が消え去ってしまう。
冬だというのにあたたかい…いや、生あたたかい空気が場を包んでいた。
ルームメイトの男に抱きつく美少年。
ある意味、とても絵になる光景だ。
「新年早々お熱いなぁ…羨ましいわ」
「な、ライム…」
「仲良き事は美しきかな」
「光、余計な事を言うなっ!」
「慎吾、あんたまさか…」
「違うっ! 美月、妙な誤解するなっ!」
こうしてある意味毎度おなじみの馬鹿騒ぎが開始される中、若菜はじっとある人を見つめていた。
それは大好きな彼、にべったりとくっついている神崎七瀬。
まるで、恋する女の子のみたい…。
若菜の胸の奥がチクリと痛んだ。