若い草花は輝いて



『若い草花は輝いて』






「なぁ、美月。これ、ここでいいか?」
「ええ、テーブルの上ね」
「ってお前、手に持ってるそれは?」
「フフ…気にしない気にしない」
「し、慎吾くん…」
「ん?な、七瀬、お前その格好…」





「若菜、誕生日おめでと〜!」
『おめでとう!』
1月2日、光の実家の1室で、若菜の誕生日パーティが開かれようとしていた。
参加しているメンバーは慎吾、太陽、光、七瀬、NANA、美月、澪、ライム、
そして若菜の計9人。
昨日、パーティの用意をし、今日の正午を少し回った頃に、
美月達に連れられた若菜は、突然のことにその大きな瞳を見開いて
呆然としてしまっている。
「ほら若菜、何ボ〜ッとしてんのよ」
「あ…えっと…あ、みんな、私なんかのために、どうもありがとうございます!」
ペコッと頭を下げる若菜に、みんなはニコッと微笑む。
こういう礼儀正しさ、奥ゆかしさが、慎吾たちは大好きなのだ。
特に、太陽は若菜に完全に惚れてしまっている。
しかし、若菜は慎吾に惚れている。
そして、慎吾は七瀬の双子の姉である七海─通称NANA─と付き合っていて、
当然そのことは若菜も知っている。
なんとも、複雑な恋愛模様である。
「ねぇ、早く乾杯して、お料理食べようよ。
でないと、冷めちゃうよ?」
七瀬の言葉に、太陽がおもむろに席を立つ。
「ではでは、若菜ちゃんの誕生日を祝して…乾杯!!」
「おい、まだ準備出来てないぞ!?」
「まったく…仕方がない男だな。」
「川崎くんったら、気が早いんだから」
そんな太陽を見て、楽しそうに微笑む若菜を、
美月は見逃さなかった。




乾杯が終わって、はや2時間。
玄関に隠してあった『もの』を取ってきた美月が、
みんなに注目を促す。
「さてさて、突然ですがプレゼント贈呈〜。
はい慎吾、渡して渡して」
「な、何で俺…?」
ブツブツ言いながら、慎吾は綺麗に包装された箱を若菜に手渡す。
慎吾に渡すよう薦めたのは、もちろん若菜のためだ。
その美月の心遣いに気付いたのか、
若菜は美月へと目線を向け頬を染めてみせる。
「あ、ありがとうございますっ!あ、開けてもいいですか?」
「ああ、もちろん」
緊張しているのか、手元が振るえてなかなか包装紙が取れない。
そんな若菜をみていたライムが、ふと声を上げる。
「あんな〜、その中身──ムグッ!?」
「もうっ!今日の主賓を冷やかす人がいますか!」
澪が、慌ててライムの口を塞ぐ。
そんな二人の様子を、若菜はクスクスと笑いながら
楽しそうに見つめている。





「わぁ…これ、本当にもらっても?」
「ええ、もちろん。ここにいる全員からのプレゼントよ」
「若菜ちゃん、お誕生日本当におめでとう!」
「七海ちゃん…ありがとう」
ある意味恋敵でもある七海の言葉に、若菜は嬉し涙を流す。
普段は、気を許せる親友だからだ。
「フフッ、可愛い。みんな、本当にありがとう!」
箱から出てきたのは、可愛らしい小鳥の姿をしたロボットだった。
さすがに空を飛んだりは出来ないが、
チョコチョコ歩き、時折小首を傾げる様が可愛いと、
今ちまたで大人気なのだ。
ただ、色んな仕草を出来るようにするために、高性能で、精密な部品を使用しているため、
値段の方はかなり高額になってしまうのだが。
「気に入ってくれた?それ、みんなで選んだのよ?」
「うん、すっごく可愛い。須藤さん、ありがとう」
若菜の言葉に照れたのか、澪は頬を少し朱にそめる。
「あ、動いた!」
テーブルに立たせた小鳥のロボットが、チョコチョコ歩き回り、
若菜の正面で小首をかしげ、『チチッ』と可愛く鳴く。
と同時に、女性陣から『可愛い!』の声と、はしゃぐ姿。
それを聞いた男性陣は、優しい笑顔を浮かべる。
やはり、女の子が無邪気にはしゃぐ姿は、男の目には可愛く映るのだろう。
「よかったね、太陽くん。
はじめ、太陽くんがキツツキにしようって言ったけど、
止めておいて正解だったよ」
「なんだよ七瀬〜、木を突き続けるあのよさがわかんねえのか?」
「だって、付属の木の形のおもちゃをず〜っと突き続けるだけだよ?」
「それがいいんじゃねぇか。」
「でも、チョコチョコ動かないし、鳴かないし」
ウ〜、と唸る太陽を見て、若菜は再びクスッと微笑む。
「フフッ、川崎くん、キツツキが好きなの?」
「え?あ、ああ、何か面白いからさ。ヘヘ…
──あれ?そういや、俺、何か重要なことを忘れてるような?」
楽しそうに語り合う若菜を見て、美月は
嬉しそうな、少し残念そうな顔をする。
若菜が楽しそうでよかった。
けど、相手が太陽くんなのよね…。
どうせなら、慎吾が相手だったらよかったのに。
そう思い、ポケットから2枚の写真を取り出す。





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