ブラザー・パニック!






 中庭に着くなり、マークはライムを抱き締めながら慎吾を睨み付けた。
「君にライムは渡せないな」
「はぁっ?」
「ちょ、ちょっと…お兄ちゃん…」
「ラーイム。少しの間、黙っていてくれないか?」
「ううっ…」
 あいかわらずライムはマークに弱く、あっさり引き下がってしまう。
 そしてマークは、ビッと慎吾のかたわらにいるNANAを指さした。
「君は俺のライムと、そこのNANA君。二股をかける気なのか?」
「はぁっ!?」
「二股をかけるような奴に、俺のライムは渡せないと言っているんだ」
「ちょっと待ったぁっ!」
 と反論したのは慎吾ではなく、NANAだった。
「誤解しないでくださいっ! 彼は二股なんてかけてませんっ。
 だって慎吾君は…、私の彼なんだからぁっ!!」
「確かに君達は恋人同士だ、それは認めよう。だがな…そこの彼は俺のライムとも…」
「だからぁ…慎吾君とライムちゃんは、つき合ってなんかいなんだってばぁっ!」
「ふむ…。では橘君、君にライムとつき合おうという考えはあるのか?」
「えっと、それはぁ…」
 日頃からライムがナイスバディで積極的に迫ってくるので、ついつい誘惑に負けてしまいそうにもなる。
 それはつまり、ライムとつき合う気が少しはあるという事なのだろうか?
 慎吾が悩んでいると、NANAはぶうっと頬を膨らませた。
「慎吾君っ!」
「い、いや違うぞNANA。お、俺は…」
「ふむ…二股をかける気は無いが、ライムとつき合う気もない訳ではないようだな…。
 つまりライムは今、NANA君から彼を奪おうとしているのだな…?」
「そーなんです。慎吾君は私の彼なんだから…あきらめてください」
「いや、恋愛は個人の自由だろう。奪うのもまた愛。君が奪われないように努力すればいいだろう。
 まあそれはともかく、今日は彼にライムとつき合う資格があるかどうか確かめにきた」
「はぁ…」
「橘君。君がライムに釣り合うかどうか、テストさせてもらおう」
「テストぉ? なんでそんな面倒な事しなきゃなんないんだよ」
「もしテストの結果が悪ければ、君にライムは渡さない」
「いや、まだテストやるって言ってないだろ」
「準備はいいか? それではいくぞっ!!」
 アホらしい…。
 いっそわざとテスト失敗しちゃおうかな? と慎吾は思った。
 けど…。
 祈るような目で、慎吾にすべてを託しているライム。
 そんなライムを裏切れるほど、慎吾は落ちぶれてはいなかった。
(…やるしかないか)
「まず最初は、ライムの事をどれだけ理解しているか、いくつか質問をさせてもらうっ!」
「ったく…仕方ないな。どーんと来やがれっ!」
「ちょっ…慎吾君っ!」
「NAーNA。別にテストに合格してライムとつき合おうなんて思ってる訳じゃないよ。
 けど、ここでライムを見捨ててわざとテストに失敗したりとか…そんな真似、俺には出来ない」
「慎吾君…」
「ああっ…やっぱりうちの惚れた人や。男らしゅうてステキ…」
 ライムの呟きにピクリ、とマークの眉が動いた。
 嫉妬の炎で瞳が燃える。






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