紫苑
それが夢だと気づいた時、あたしは目を覚ました。
そういえばあんな事もあったなぁ…と、心の中で呟く。
ベッドから起き上がり窓の外を見ると、東の空が明るくなってきたところだった。
「ずいぶん早く目を覚ましちゃったなぁ…」
ゆっくりと起き上がり、ハシゴに足をかけ下に降りる。ハシゴはひんやりと冷たくて、眠気覚ましには丁度いい。
あたしが二段ベッドの上を使っている理由は、恐がりのルームメイトにあった。
上の段を使うと、寝惚けて落っこちちゃうんじゃないか…。
降りる時に足を滑らせちゃうんじゃないか…。
そんな事を考えちゃう憶病な子だけど、あたしにとってはかけがえのない親友。
さてと、その親友の可愛らしい寝顔でも覗いてやろうかな?
下の段のベッド。そこに親友の寝顔は無かった。
「あっ…そっか。もう、いないんだ…」
あたしったら、まだ寝惚けてたみたい。
あたしの親友は、あたしのルームメイトは、あたしの若菜は…もういない。
つい先日、両親と共にイギリスへ行ってしまったのだから。
「向こうは今、何時頃かなぁ…」
時差ボケで、今頃眠気をこらえていないだろうか?
向こうであたしの代わりに若菜を守ってくれる友達が出来てたらいいんだけど…。
なんだか寒い。
若菜がいなくなった分、この部屋からあたたかみが消えてしまったかのよう。
寂しい…。
若菜が寂しがり屋さんだって事は知っていたけど、自分までこんな寂しがり屋だとは知らなかった。
「若菜…」
どうしてこんなにも寂しいんだろう?
そういえば、今まで1人ぼっちになった事なんて1度も無かったっけ。
鷹宰学園に入ってからは、ずっと若菜が一緒だった。
鷹宰学園に入る前は、ずっと…。
「そういえば、もう1ヵ月以上会ってないなぁ…」
若菜の転校のせいですっかり忘れてた。
もうあいつ抜きでディアラバーズの新聞も完成しちゃってる。
ちっとも新聞部に顔出さないし…。
「もうっ。あいつったら、いったい何してんのよ…」