紫苑






 昼休み。あたしは購買でパンを買って、秘密の場所でのんびり食べようと思った。
 秘密の場所。それは校舎裏。
 新聞部の先輩に教えてもらった場所で、校舎のどこからも死角になっていて、人が絶対に来ない場所。
 なんでそんな所で昼食を摂ろうと思ったのかというと、1人になりたかったから。
 深い意味はない。本当に1人になりたかっただけ。ただ、なんとなく。
 中庭を通り、目的の場所が近づいて…、校舎裏から小さな物音。
(もしかして、誰かいるの?)
 あの場所を知ってる生徒なんて、新聞部員の中でも限られてるのに…。
 いったい誰だろう? 軽く好奇心を刺激され、あたしはこっそりと物音のした方に向かった。
 あたし達以外にあの場所を知ってる人がいたとすれば、どんな奴か知っときたいし。
 それにもしかしたら、今あそこにいる人物はあたしのよく知ってる奴かもしれない。
(鬼が出るか蛇が出るか)
 なーんて事を考える反面、鬼も蛇も出る訳ないと思ってたり。
「んっ…んんっ!」
 どこかで聞いた事のある声が、あたしの耳に届いた。
 けど、なんだかうめき声のような…。
 少し不安になりながらも、あたしは物音を立てないよう気をつけながら奥へ向かう。
 すると、2つの人影が重なっていた。
 男子が、女子の唇をふさいでいる。自身の唇で。
(えっ…ええっ!?)
 つい声を上げて驚きそうになり、あたしは慌てて手を口に当てた。
(き、き…、キス、してる…)
 この男女交際禁止の鷹宰学園で、破ったら即退学という校則をものともせず…。
 そりゃまあ、ここは死角になってるから、そういう事をするには持ってこいかもしれないけど…。
(だからって、学校の中でしなくてもぉ…)
 さすがにこれ以上覗き見をするのは悪いし、あたしはこのまま立ち去るべきだと思った。
 けど、こんな所でこんな事をしている2人にも興味はある。
 あたしは木陰に隠れながら、もう少しだけ近づき、こっそりラブシーンを覗き込んだ。
 そこにいるのが誰か確認したら、すぐ戻ろうと思いながら…。






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