紫苑
放課後、あたしは新聞部の部室に向かった。幸い誰もいない。
窓ガラスから夕陽が射し込み、室内を赤く照らす。
あたしは部室の奥の壁際に行き、手を下ろし思い切り床を蹴った。上と下が逆さまになり、かかとが壁にトンとつく。
スカートがめくれ、下着と太股が外気に晒され、ちょっと寒い。
あたしが考え事をする時の、秘密のポーズだ。
瞼を下ろし、呼吸を整え、気持ちを落ち着かせ…。
あの時、裏庭で見た光景を思い出す。
あたしの幼馴染み。あたしと若菜の友達。2人の秘め事。
あいつが部活に顔を出さなくなったのは、須藤さんとつき合い出したから?
特別授業や昼休み、放課後の時間を利用して会っていたの?
それで新聞部に顔を出す時間なんて無かったのかな。
だとしたら、あたしはどうするべきだろう? やはり幼馴染みとして祝福しないとな。
けど、あの獣のように情欲をむさぼる須藤さんの姿。
辱めるように、いたぶるように接するあいつの姿。
とても恋人のようには見えない。
そういえば朝食の時、須藤さんの手首に縄で縛られた痣のようなものがあった。
あいつがアブノーマルな嗜好を持っていた記憶は無い。
中学の時にあいつの部屋で見つけたそういう本だって、そんなアブノーマルな物は無かった。
かといって、あの須藤さんがそんな事に興味を持っていたとも思えない。
つき合ってるうちに、隠れていた嗜好が湧き出た結果なのだろうか?
もし教師や他の生徒に見つかったら、ただじゃすまないだろうなぁ…。
神崎君とリーガンさん、やっぱりあの場所に行ったのかな?
ルームメイトの神崎君なら、あいつが須藤さんとつき合ってた事を知っていてもおかしくない。
それに以前、リーガンさんは神崎君にホの字だって聞いた事がある。
今思い返してみれば、あの2人に見つかっても大丈夫だったみたい。
もしかしたら、神崎君とリーガンさんもつき合ってるのかな?
そしてあの裏庭で一緒にお昼ご飯を食べようとしていた…とか。
けどあそこにあいつと須藤さんがいたって事は、知っていたのかな?
いや、多分知らなかったろうな。だってあの2人、あんな事をしてたんだもの…。
いくら友達とはいえ、他人に見られたくないに決まってるし。
よし、これで考えはまとまった。
今日明日にでも、千尋さんの名前を借りてあいつに電話しようかな。
そして、須藤さんの事を聞いてみよう。
学園にバレないよう、あたしも協力してやろうかな?
あ、千尋さんにも教えちゃおうかしら? 驚くだろうなぁ。
『あの愚弟に彼女がっ!?』
って感じで。
そういえばお昼休み。あんな事があったせいで購買で買ったパン、半分くらいしか食べる時間なかったんだよね。
とりあえずここで残したパンをたいらげて、とっとと寮に帰るとしますか。
あたしは閉じていた瞼を開く。
眼前に、男子生徒が立っていた。
「ようっ、考え事か?」