紫苑






 1度目のキスは幼稚園の時。
 ずっと一緒にいようと約束して、キスをした。
 2度目のキスは、中学の卒業式。
 よく解んないうちにそういう雰囲気になって、その場の流れでキスしちゃった。
 そして3度目…。今までとは違う、突然の、あたしの意思を無視した、強引なキス。
 イヤッ!
 そう叫ぼうと思ったけど、唇をこじ開けて侵入してきたあいつの舌に邪魔されて、小さく息を吐くだけに終わった。
 むしろ叫ぼうとしたせいで口を開いたため、舌の侵入を容易にしてしまう。
 歯をしっかりと閉じれいれば、まだマシだったかもしれないのに。
 あたしの舌先に触れる、あたたかくて柔らかいもの。
 まるでそれ自体が別の生き物のように、あたしの舌に巻きついてくる。
「んぐっ! むぅっ…うっ!」
 必死に抵抗しようとしたけど、何故か身体に力が入らない。
 甘く、熱く、蕩けるような快感が、ズンと頭にのしかかる。
 突如、あたしの口腔に何かが流れ込んでくる。生温かい、ぬるりとしたもの。
 それは唾液だった。あたしの唾液と混ざり合い、口の隅々まで侵食する。
 しだいに口内は唾液で満たされ、喉が詰まりそうになってしまった。
 あたしは無意識のうちに、混ざり合った唾液をゴクゴクと飲み込む…。
 やっと楽になったと思った刹那、今度は思い切り吸引された。
 あたしの舌が、あたし以外人の口腔に吸い込まれる。
 硬い歯が優しくあたしの舌を噛み、柔らかい舌があたしのものを愛撫した。
 上下にしごかれ、回るように撫でられ、グイッと引っ張られ…。
 じゅぷじゅぷという音が、脳に直接響く。
 朱唇から垂れた涎が顎を伝わり、ポトリと落ちて制服のスカーフに染みを作った。
 こんなの、キスなんかじゃない。
 あたしは今、口を陵辱されている。
 恥ずかしくて、悔しくて、情けなくて、恐くて、気持ち悪くて、気持ち良くて、頭の中を何かがグルグルと掻き乱す。
 どうして? どうしてこんな事になってるの? 訳が解らない。助けて、助けて…。助けて、しん…。
 助けてくれる人なんていない。助けを求めたい相手は、今あたしを陵辱している男。
「むっ…ぐぅっ…」
 泣きたいのを必死にこらえながら、あたしは震える手を陵辱者の胸に押し当てた。
 何とか離れたいけど、身体に力が入らない。
 あたしの脇腹を撫でていた手が、ゆっくりと下りていった。
 スカートの中へ侵入し、下着の上から、触れる。
 熱く濡れた、あたしの――。
「嫌ぁっ!!」
 電気のような快感と恐怖が下半身から脳へと駆け上がり、あたしは眼前の男を思い切り突き飛ばした。
 唇が離れ、背中から床に倒れる彼。
「ぐっ…!」
 あいつが苦しそうに呻き声を上げた瞬間、あたしはすでに出口へ向かって走り出していた。
 けれどそれをさえぎる、彼のルームメイト。
 神崎君の腕が伸びてきたと思った直後、視界が反転する。逆立ちした時みたいに、床が上にある。
 混乱の連続。
 背中を床に打ちつけられ、肺から空気を押し出される。息が出来ない。
 投げられた?
 そう理解した時、神崎君はあたしの両手首を掴んでいた。
 投げられた時に掴まれたのか、投げた後に掴まれたのかすら解らない。
 ただ…力一杯握り締める手は、あたしをここから逃がさないという意思に満ち溢れていた。
 頭上からあたしの顔を覗き込む神崎君は、あたしへの敵意を剥き出しにしている。
 恐い。お化けなんかより、ずっと…。
「やってくれたな、美月。けどそういう気が強いところも、俺は…」
「ヒッ…」
 あたしは太股を閉じ、腰を引いたけど…。そんな事しても、あいつの陵辱からは逃れられない。
「本当は…さ、美月を奴隷にする予定なんて無かったんだ。
 けど昼休みの時、NANAとライムから、美月があそこにいたって知らされてな…。
 幼馴染みのお前に色々喋られると、ちょっと面倒な事になる。
 だからこうして、お前に会いに来たって訳だ。運が悪かったと思って、あきらめろ」
「や、やっぱり…あたしがいたって事、気づいてなかったんだ…」
「ああ。あそこなら人が来ないと思って、油断してたからな…」
 昔つないだ事のある手が、あたしの太股を力強く横に押し開いた。
「や、やめてっ。大声を出すわよ」
「無駄だ。今日はこの階に生徒はいない。部員達も、今日は来ない」
「な、なんでそんな事が解るのよっ!?」
「俺の奴隷は生徒だけじゃないんでな。まあ、一匹は可愛くないが…」
 身体をあたしの太股の間まで進め、今度は制服へと魔手を伸ばす。
「美月なら、NANAやライムみたいに…俺のお気に入りになれるかもな」
「馬鹿な事言わないでっ! そっ、それに…神崎君は男の子でしょーがっ!」
「男…ね。NANA、美月に胸を触らせてやれよ」
「はい」
 神崎君は感情の無い声で、即座に返事をした。
 彼はあたしの手を解放すると、制服のチャックを下ろした。
 あらわになった白いシャツの胸元のボタンを、2つほどはずす。
 そして再びあたしの手を掴み、開けた胸元へと導く。
 彼はシャツの下にサポーターをつけていて、下から中へ入れる。
 男性には決して存在しない、柔らかな感触。






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