秘密のParty Party REVENGE






秘密のParty Party
――REVENGE――







「…という訳で、みんなに協力して欲しいんだっ!」
 と、ボクは机を囲むみんなを気持ちを伝えた。
 慎吾君の友達の、太陽君と伊集院君。
 学園トップの成績を誇り、慎吾君とペアを組んで自由実験をした須藤さん。
 慎吾君の幼馴染みの佐伯さん。
 とてもおとなしいけど、動物好きでとっても優しい樋口さん。
 そしてボクと慎吾君の仲を応援してくれている、初めての『女の子の友達』であるライムちゃん。
 こんなステキな仲間達と一緒なら、絶対に上手くいく。そう確信していた。
 けれど…。
「えーっと、神崎君」
「なぁに? 佐伯さん」
 ためらいがちに、佐伯さんが口を開いた。
「あのね。あなたの気持ちはよーく解ったわ。去年のお返しに、あいつのバースデイパーティーを開きたいって気持ちもよく解る。
 けどね、悪いんだけど…その、今年は部室使うのは無理かもしれない…」
「…へ?」
「だって、夏休みになるまではずっと部活はあるのよ? それに、夏休み中だってあたしみたいに部活動をする部員もいるし。
 去年の神崎君の時は、たまたま部長が旅行へ行ってて、帰って来るまで部活は休み…って事になってたんだから」
「そ、そんなぁ…」
 計画の第一歩で、いきなりつまづいてしまった。
 計画。
 それは去年、慎吾君がボクに内緒で準備してくれたバースデイパーティーのお返し。
 ボクは彼のお誕生日をお祝いする事で、パーティーのお礼をしようと思っていた。
 けれど…。
 彼の誕生日は、7月20日。
 ボクの誕生日は、7月29日。
 つまり、彼の誕生日はとっくに過ぎていたという事だ。
 そしてアレから1年…。
 ついに彼の誕生日をお祝いする日がやってきたっ!
 だからボクは、昨年のメンバーを新聞部部室へ集め、作戦会議をしようと思ったんだけど…。
「それによぉ。慎吾の誕生日って20日だろ? 授業も部活もあるのに、パーティーの準備するのって難しくねぇか?」
「確かにそうだな。いざ夏休みに入ってしまえば、宿題等のスケジュールを自分で調整する事も可能だが…」
「だいたいどこでやんのよ? さっきも言った通り、うちの部室は使えないわよ?」
 確かに…パーティーをするには、場所が必要なんだけど…。部室以外に、どこか使える所はないかな?
「ムムム…。あ、そうだっ! 寮でやれば…」
「神崎君。夏休みではないのだから、他の生徒もたくさんいるのだが…」
「寮ったってなぁ。あのおばちゃんが、食堂とか使わせてくれるとは思えないし…。やっぱ慎吾の部屋か?」
「それ以前に女子のあたし達は男子寮に入れないんですけど」
 うっ…。いい案だと思ったんだけど、寮もダメかぁ…。
 どうしよう? 他に使えそうな場所なんて知らないし…。
「ねえライムちゃん。どこかパーティーに使えそうな場所ってないかな?」
 藁にもすがる思いでライムちゃんに声をかけたけど…。
 何故か彼女は、気まずそうにうつむいていた。
「…ライムちゃん?」
「NANAぁ…。堪忍な。実はうち…、その日は部活があって…」
「ええっ!?」
「夏休み前に色々やっとく事があるんよ。そやから、授業が終わったら部室へ直行なんや…。多分時間かかる思うし。
 それに部活終わってすぐパーティー行っても、寮の門限があるからほんのちょっとしか参加出来へん…」
「そ、そんなぁ…」
 ライムちゃんは去年、慎吾君のプレゼント選びを手伝ってくれたりして、とっても感謝している…。
 なのに、ライムちゃんが来れないだなんて…。
 落ち込むボクに、まるで追い討ちをかけるように…今度は太陽君が重い口を開く。
「実は俺もパーティー無理かも…」
「た、太陽君もっ!?」
「夏の大会も近いし、20日も多分練習あると思うんだ。俺スポーツ特待生だから休む訳には…」
「うっ…。それじゃあ、仕方ないよね…。えっと、まさかとは思うけど、他に20日は用事があるなんて人は…」
 ゆっくりと、ゆっくりと手が上がる。ボクから顔をそむけながら、1人の女の子が…。
 樋口さんが恐る恐る手を上げた。
「あの…その…。私、20日は…当番で…。鳥さん達の小屋を…掃除しないと…」
「そ、そうなんだ…」
 これで欠席者はライムちゃん、太陽君、樋口さんの3人。
 伊集院君、佐伯さん、須藤さんは大丈夫みたいだけど、だいぶ人数が減っちゃった…。
「神崎君、どうする? みんなそろってのパーティーはもう難しいみたいだが。
 いっそ男子寮の君達の部屋でやるかい? それなら、ボクと太陽。それに適当な男子達と一緒に…」
「あ〜、その方がいいかもね。若菜はどっちにしろパーティー行く時間無いし。
 それにあたし、あいつのバースデイパーティーなんて子供の頃から何度もやってるから、無理してやりたいとは思わないし。
 須藤さんは慎吾のバースデイパーティーどうする? 無理して出たいって訳じゃないなら、男子だけでやってもらえばいいし」
 事の成り行きを不安げに見ていた須藤さんは、
「わ、私は…その…」
「若菜もリーガンさんも行かないんじゃ、女子はあたし達だけだし…。ちょっと居心地悪そうよね」
「そ、そうかもしれないけど…」
「もう慎吾のパーティーはあっちに任せるって事にした方がいいんじゃない?」
「え、ええ…。確かにその方がいいかもしれないわね。で、でも私は…」
「じゃあ伊集院君、パーティーはそっちに任せていいかな?」
「まあ人それぞれ都合というものがあるのだし、やむをえないな。じゃあ20日には適当にケーキやジュースを用意して…」
 ボクはガックリと肩を落としながら、まるで他人事のように伊集院君の話を聞いていた。
 1年前。あんなに楽しいバースデイパーティーを開いてくれた慎吾君に、お礼がしたいと思ってたのに…。
 慎吾君がビックリして、大喜びしてくれるようなパーティーを開きたかったのに…。
 ボクの計画は、無残にも砕け散ってしまった…。

「NAーNAぁ。なにも、みんなでお祝いする事ないんちゃうか?」

 …え?
 ライムちゃんの明るい口調に、ボクは思わず首をかしげた。
 なぜか落ち着いた笑みを浮かべて、ボクを見つめている。
「ど…どういう意味だい? だって、パーティーは大勢いた方が…」
「確かに人数多い方が盛り上がるけど、何も騒ぐだけがパーティーやない」
「それじゃあ…いったいどうするのさ?」
 ライムちゃんはニンマリと笑うと、自信ありげに胸の前で腕を組んだ。
「慎吾の誕生日な…。帰り、一緒に寄り道でもしたらどうや? NANAと慎吾の、2人っ切りで」
「2人っ切り…?」
「そうや。誰にも邪魔されんと、2人っ切りの時間をたーっぷり楽しむんや」
 それって、もしかして…デート?
 彼の誕生日に、彼とデートをするの?
「NANA。うちの案、どう思う?」
「すっ、すごくいいと思うっ! ボク、ライムちゃんの言う通りにするよっ! 誕生日は彼と一緒に帰るっ!!」
「決まりやな。それに門限ギリギリに帰ったとしても、寮で軽く騒ぐくらいの時間はあるやろ」
「うん…うんっ! すごいよライムちゃんっ! 何から何まで完璧なアイディアだよ、ありがとうっ!」
「いや〜ん。うちとNANAの仲やないのぉ。NANAのためなら協力は惜しまへんよ」
「よーしっ! それじゃあ後は帰りにどこにどんな順番で寄り道するか考えないとっ!!」
「幸いここは新聞部の部室や。この辺の町の資料もそろってるんちゃう? うちも手伝ったる」
「何から何までありがとうライムちゃんっ!」
 ボクは興奮を抑えきれず、ライムちゃんの手をとって飛び跳ね始めちゃった。
 そんなボクを見て、ライムちゃんは嬉しそうに笑う。
 待っててね、慎吾君。
 とびっきり楽しい誕生日にして上げるからっ!

 そしてそんなボク達の様子を、他のみんなはポカーンと見つめていた。






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