秘密のParty Party REVENGE
「キャンッ!」
木々が勢い良く揺れる音と、誰かが思いっ切り倒れる音と一緒に、女の子の叫び声。
見られたっ!?
私は思わず肩をすくめ、慎吾君の手をぎゅぎゅっと握った。
どうすればいいかなんて解らない。ただ恐くて、彼の手を握る事しか出来ない。
彼も私の手をぎゅっと握り返してきてくれ…たんだけど、すぐ力が抜けてしまった。
そして呆けた声で、言う。
「なっ…なんでお前がここにいるんだよ」
やけに明るいくせに、震えている声が返事をする。
「あ、あははっ。こんな所で会うやなんて、奇遇やなぁ」
って、この声は…。
「ら、ライムちゃんっ!?」
ベージュ色のTシャツと、群青色のミニスカートに身を包んでいるけれど、彼女は間違いなくライムちゃん。
まず最初に思ったのは、どうして彼女がここにいるんだろう? という事だった。
だって彼女は今頃、鷹宰学園の映画研究会部室で、夏休みに向けて色々やる事がある…はずだ。
なのにどうして、私服姿でこの公園にいるんだろう?
というか、どうして木陰から出てきたんだろう?
「えーと、NANA」
慎吾君は、じっとライムちゃんを見つめたまま言った。
「さっき見た映画って、ライムの紹介って言ったよな? もしかして、デートコースはライムと一緒に決めたのか?」
「そ、そうだよ。あの、ボク達が楽しいデートを出来るようにって、色々と…」
「…それじゃ、この公園に来たのも、ライムに?」
「うん。ここなら人が少ないし、ロマンチックな場所なんじゃないか…って」
「…なるほどね」
慎吾君のこめかみがピクピクと動く。眉の間に谷間を作り、唇は引きつっていた。
そんな彼に睨まれ、ライムちゃんは顔を真っ青にして後ずさりをする。
「あ、あのな…これは、そのぉ…」
「ラーイム。お前、俺達の後をつけてやがったな?」
「そ、そ、それは…」
「それで、俺とNANAのデートを…覗き見してたって訳か」
「…あ、あははははっ。大正解〜、なんちゃって…」
「………………」
「………………」
重〜い沈黙。
2人の視線が絡み合い、気まずい空気が満ちあふれる。
私はただ、慎吾君の腕の中で事の成り行きを見守っているだけ。
しばらくして、慎吾君は深いため息をついた。
「ったく…。私服って事は、俺達が学園を出た直後からつけてたって訳じゃないんだろ? …どこからだ?」
「えっとぉ…、あんたらが音楽店行っとる間に、映画館のトイレで着替えして待ち伏せしてたんよ」
「…なるほどな」
慎吾君はまた深いため息をついた。
「あ、もしかして映画館でボク達の真後ろに座った人って、ライムちゃんだったの?」
「いやぁ、さすがに真後ろはマズかったかなぁ〜思たけど、一度座ったんにまた席変えるのもおかしいし」
「じゃあ…ボク達が手をつないでたトコも見たんだ」
「バッチリと」
「ヤだ…恥ずかしいなぁ」
と私が呟くと、慎吾君はまたまた深いため息。
「ったく…。NANAを利用して、俺達のデートを覗き見して…なぁに考えてんだお前は」
「だってぇ…あんた等が上手くいっとるか確認したかったし…。うち、これでも2人の恋を応援しとるんよ?」
「…だからってなぁっ、やっていー事と悪い事があるだろっ!」
「か、堪忍な…」
「………………はぁっ」
慎吾君は私をお膝の上から降ろすと、ゆっくりと立ち上がった。
そしてまたまた深いため息をついて、ズボンについた土を払う。
「あんた、さっきからため息ばっかりやな…」
「誰のせいだと思ってんだよ…」
「…間違いなく、うちやな…」
慎吾君はまたまたまた深いため息をつくと、私に向かって手を差し伸べてくる。
彼の手を掴むと、グイッと引っ張って身体を起こしてくれた。
私が立ち上がると彼は手を離そうとしたけれど、離れないよう…ぎゅっと握る。
慎吾君が私の方を見たので、つい顔を伏してしまった。
「あの…ごめんなさい」
喉からしぼり出すように、私は呟く。
「…どうして、NANAが謝るんだ?」
「だって…君のお誕生日なのに、ため息ばかりつかせちゃって…」
「馬鹿、NANA。ため息の原因はライムだろ?」
「けど…ボク、ボク…」
胸にズッシリと圧し掛かるこの感情を、なんて表現すればいいのか解らず、私は言いよどんでしまった。
この不安な気持ちから逃げるように、彼の手を力いっぱい握る。
ポン。と私の頭をあたたかいものがおおう。
「NAーNA。俺は、今日すっごく楽しかったぞ。今までで1番楽しい誕生日だった」
「慎吾君…」
「だから、そんな気を落とさないの」
「…うんっ!」
彼の言葉を聞いた途端、胸が軽くなって元気があふれてくる。
よかった。慎吾君がデートを楽しんでくれて…本当によかった。
「あ〜、なんか疲れちまったなぁ。NANA、そろそろ帰ろうぜ」
「はいっ」
「…と、その前に」
くるぅり、と彼は身体の向きを変えて、ライムちゃんに微笑みかける。
「ラーイーム。この落とし前…どうつけてやろうか?」
タラーリ、と冷や汗をかきながら、ライムちゃんは微笑み返す。
「あっ…あははっ。その…お手柔らかにたのむわ…」