秘密のParty Party FINAL
「やったぁっ! 見て見て、10メートルくらい泳げてるよ!」
「ほ、本当っ?」
地面に足をつけて振り返った七瀬は、私の立っている位置を見て驚いた。
私のすぐ隣から無我夢中で泳いで、気がついたら10メートル前後の距離を泳いでいたのだから!
「七瀬、よかったね! これだけ泳げればもう大丈夫だよ!」
「そっ、そんな。まだ姉さんにはかなわないよ」
頬を朱に染めてはにかむ七瀬がとても可愛らしくて、私は弟を抱き締めたい衝動に駆られた。
なのでバシャバシャと水を掻き分けて走り、七瀬に抱きつく。
照れているのか、大慌ての七瀬は私の耳元で上ずった声を上げた。
「わわっ!? ね…姉さん!?」
「よ〜し。だったら私よりいっぱい泳げるよう、もっと練習しちゃおう!」
「むっ、無理だよ! ここまで泳げるようになるのだって、あんなに苦労したのに…!」
「大丈夫よぉ。私が手取り足取り教えて上げる」
「えっ、ええ〜っ!?」
腕から可愛い弟を解放すると、私は2〜3歩離れた位置に立った。
七瀬の所とたいして深さは変わらず、水は胸のすぐ下くらいまでの高さ。
「今度は私と一緒に、2人並んで泳いでみよう。すぐ隣から応援して上げるね」
「あっ…うん。お願いします」
わずかに弧を作っている唇から出る声は小さかったけれど、口調は嬉しそうに弾んでいる。
その様子に私は満足気にうなずいた後、やや前かがみになって泳ぐ準備をする。
「七瀬、準備はいい?」
「いつでもいいよ」
「それじゃあ…いち、にっ、さん、でスタートしよう」
「はい」
「いっくよ〜。いち! にっ! さん! ハイ!」
勢いよく地を蹴って、手と足で力一杯水を掻く。
水中独特の浮遊感が身体を包み込んだ。
首だけ動かして横を見ると、七瀬は少し斜め後ろからついてきている。
七瀬は手足の動く幅が小さく、そのおかげで手足を動かすスピードは早いけれど、
あれでは無駄に体力を消耗してしまうし、泳ぐスピードもたいして出ない。
「もっと手足を大きく動かして!」
「はっ、はい!」
アドバイスを素直に聞き入れ、七瀬の泳ぐスピードがわずかに上がった。
私に置いていかれまいと必死にがんばって、ぐんぐん腕が上達している。
七瀬と一緒に練習をする事が七瀬と一緒に泳げるようになっていく事が楽しくて仕方なかった。
私は首を前に戻し遠くを見据え、張り切って泳ぐスピードを上げる。
(ほらほら。急がないと追いてっちゃうぞぉっ!)
慌てて追いかけてくる七瀬を期待して再び振り向こうと思った途端、
「七瀬っ!!」
切羽詰った、悲鳴にも似た叫び声が砂浜から聞こえた。