秘密のParty Party FINAL
「…あっ、あなたの寝室よ」
七瀬は視線だけ動かして部屋を見回した後、天井で視線を止めた。
「…そうか。ボク、溺れて…。せっかく姉…あなたと一緒に練習をしていたのに。迷惑をかけてしまって、ごめんなさい」
「迷惑だなんてっ! 謝らなくちゃいけないのは私の方よ? あなたが疲れているのにも関わらず無理をさせて…」
カァッと目頭が熱くなり、胸が締めつけられる。
七瀬を直視出来なくて私はうつむき、爪が食い込むほど拳を握った。
「…いえ。ボクがいけないんです。慎吾さんや温子伯母さんとの約束を破ってしまって…」
「…約束?」
「疲れたらすぐ休む事。ボクは病弱だから、無理をすると危ないって」
「それじゃあやっぱり私のせいよ。私があなたに無理をさせてしまったから――」
「…いえ。ボクがいけないんです。慎吾さんと練習している時はちゃんと疲れたって言って休んでいたのに。
でも…あなたと練習をするのが、その、楽しくて…嬉しくて…。
それに、あなたに良いところを見せようと張り切り過ぎてしまったんです。あなたに…好きになって欲しかったから」
「…え?」
うつむいていた顔をハッと上げると、不安の色を浮かべている七瀬が、腰から起き上がってこちらを見つめていた。
今、彼は何て言ったのだろう?
「…双子の姉のあなたが、今までどんな生活を強いられてきたか…全部知っています。
だから…あなたから自由を奪ったボクを、きっと憎んでると思って…。
でもあなたは…まるで普通の姉弟のように接してくれた。だから、ええと…」
自分の想いを必死に伝えようと言葉を探す七瀬が、あまりに愛しくて。
気がつくと私は、力強く弟を抱き締めていた。
「ねっ…姉さんっ!?」
「大丈夫…。大丈夫だから。あなたの言いたい事は、ちゃんと解ってるから…。
だって、だって…私も同じなんですもの」
腕の中で、七瀬の身体がビクンと跳ねた。
「私も同じ…。離れから出て、慎吾君と暮らしている私を…あなたは嫌ってるんじゃないかって思ってた」
「そんなっ…! そんな事、あるはずないっ!」
「そうね。でも…あなたが私に嫌われてるんじゃないかって不安だったのと同じように、私も不安だったの。
安心して、七瀬。私は七瀬の事、大好きよ。だって…たった1人の弟なんですもの」
「っ…! ね………………姉、さん…」
「………………七瀬…」
私の背中に、あたたかいものが触れる。七瀬の腕が背中に回されたのだと解った。
それから私達は、温子伯母さんが夕飯が出来たと知らせに来るまでの間…ずっと抱き合っていた。
十数年間、触れ合えなかった時間を取り戻すかのように。