桜色の空の下で
数分後、須藤さんはようやく落ち着いたのか、そっとあたしの胸から顔を離した。
顔は相変わらず真っ赤で、ついでに目も真っ赤に充血している。
「……え〜と、少しは楽になった?」
「……おかげさまで」
淡々とした口調だったけど、やっぱり怒ってるっていうより恥ずかしがってるって感じだった。
須藤さんの意外な一面を見ちゃったなぁ。
そういえば慎吾と一緒の時は、普段よりよく笑っていたけど……慎吾の前じゃあいつもこんな風だったのかな?
ちょっぴり、慎吾が羨ましい。
「えっ……と。ホントにごめんなさい。盗み聞きしちゃって……弁解の余地もありません。全面的にあたしが悪いです」
「……もういいわ。それに、あたしもあなたに謝らないと。橘君との仲を勘繰って、嫉妬して……。
つい素っ気ない態度をとってしまって、そんな私に佐伯さんも戸惑っていたし……本当にごめんなさい」
「いや、あたしは怒ってないから謝る必要ないって。ただ仲直りしたいなーって思ってただけだから」
「そう……。それじゃあ、今から仲直りね」
「そーゆー事っ」
あたしが笑って応えると、須藤さんも微笑み返してくれた。
間に合ってよかった。
卒業式が終わってからじゃ、仲直りする機会なんてあったかどうか解らなかったもんね。
さっきは慎吾の後をつけてきて後悔しちゃったけど、おかげで須藤さんと仲直り出来たんだし……。
須藤さんには悪いけど、慎吾の後をつけてよかったかもしれないと思った。
ピーン、ポーン、パーン、ポーン……。
突然、校内放送の音。
何かあったのかな? とあたしは首をかしげた。
『これより卒業式を行います。卒業生のみなさまは、体育館へ移動を開始してください』