桜色の空の下で
またかいっ!!
あたしは心の中でそう叫んだ。
まさか中学校の卒業式だけじゃなく、鷹宰学園の卒業式でも遅刻してしまうとは……。
「すっ、須藤さんっ! 急いで体育館にっ!!」
「え、ええっ。でも……」
須藤さんは、自分の身体を見下ろした。
土の上にへたり込んでしまったおかげで、膝やスカートがすっかり汚れてしまっていた。
そしてまだ赤い顔には、くっきりと涙の跡。
さらにあたしの胸に顔をうずめていたせいで、すっかり前髪が乱れている。
あたしも自分の姿も見下ろしてみた。
須藤さんと同じく、膝やスカートには土がついてしまっている。
さらに制服の胸。
須藤さんの涙でじっとりと濡れ、タイはすっかりしわくちゃになっていた。
あたしと須藤さんは互いの顔を見合わせる。
こんな姿で卒業式に出ていいのだろうか?
きっと、須藤さんも同じ考えに違いない。
「ど、どうしよっか……?」
「どうしようって言われても、こんな格好じゃあ……。と、とりあえず土を払わないと」
「あっ、ハンカチで払っちゃダメッ! 先に顔拭かないと……涙の跡がくっきり。それに、前髪も乱れてるっ」
「嘘っ!? ヤだ……もうっ」
「とりあえずトイレで身だしなみ整えよっ! あたしも胸元拭かないと……涙でぐっしょりになってる」
「あ、あなたが無理矢理抱き締めたりするからっ……!」
「あー、もうっ! 話は後っ! とりあえず急ごうっ!!」
まだ何か言いたそうな須藤さんの手を握って、あたしは走り出した。
ふと見上げれば、一面桜色。
青い空を、咲き乱れる早桜が埋め尽くしている。
桜色の空の下で、あたしはやっぱり慎吾の後なんかつけるんじゃなかったと後悔した。