人魚姫NANA





恋愛CHU?
人魚姫NANA








 深い深い海の底、そこにはたくさんの人魚が住む国がありました。
 人魚達は毎日歌ったり泳いだりしながら、とても幸せに暮らしています。
 人魚の国には七海というそれは美しい人魚のお姫様がおり、みんなからNANAと呼ばれていました。
 さらにもう一人、NANAに勝るとも劣らない美しい人魚の王子様もいました。
 NANAは双子の弟でもあり王子様でもある七瀬と共に、今日も仲良く遊んでいます。
 そんな美しい二人に、今まさに魔の手が迫っていました。
 というかむしろ、七瀬に魔の手が迫っていたのです。
「ああ……七瀬。君はなんて美しいんだ……」
 美少年好きの人魚である拓人は、珊瑚の影からNANAとたわむれる七瀬を見つめていました。
「フフフ……七瀬、今日こそ君を僕の物にしてみせブゲゴフェッ!?」
 突如、拓人の脳天に鉄拳が振り下ろされます。
「ちょっとあんた。何いやらしい目で七瀬君を見とんのよ」
 拓人を退治したのは、NANA達を守る人魚の騎士ライムでした。
「お、お前は……」
「うちの愛しい七瀬に手ぇ出そうとするとは、死を覚悟しての事やろな?」
 ライムもまた、美しい七瀬王子に心を奪われていました。
 指の骨をバキボキと鳴らし、拓人に詰め寄ります。
「ちょ、ちょっと待て。話し合お……」
「問答無用やーっ!」
「ぎょえーっ!」
 拓人の叫びに気づいたNANAと七瀬は、珊瑚の方を振り返りました。
「姉さん、今変な声がしなかったかい?」
「うん。私も聞こえたけど……何だろう?」
 二人が首をかしげていると、珊瑚の影から拳を赤く染めたライムが現れました。
「ライムちゃん。さっき、変な声がしなかった?」
「変な声? うちはなーんも聞こえなかったで」
「リーガンさん。珊瑚の向こうの水が赤く濁っているよ?」
「そういえばタコの太陽が赤い墨を吐けるようになったとか言ってたなぁ」
 ライムは嘘を並べて、その場をやり過ごしました。
「それより、うち女王様に言われて二人を迎えにきたんよ」
「温子伯母さんに?」
「そうや。何でも、大事な話がある言うてたで」
「大事な話……いったい何だろう?」
「さあ? とりあえず言ってみようよ」
 こうしてNANAと七瀬は、ライムと一緒にお城へ帰りました。






「七海、七瀬。お誕生日おめでとう」
 人魚の女王である温子は、お城でパーティーの準備をして待っていました。
 広場には数々のごちそうが並べられ、国民の人魚達が盛大な拍手を送ります。
「わあ……すごい。温子伯母さん、ありがとうっ!」
「パーティーの準備をしてくれていたなんて、とても嬉しいです」
 こうして二人の誕生パーティーが始まり、みんなで楽しい一時を過ごします。
 NANAが友達であるタコの太陽に「赤い墨を吐いて見せて」と言って、
 その直後ライムが太陽をどこかへ連れ去り、一人で戻ってくるなどアクシデントもありました。
 そうしてパーティーも終わりが近づき、女王様からNANAと七瀬にプレゼントが贈られます。
「七海、七瀬。今日からあなた達に、海の上に出る権利を与えます」
 人魚達はある一定の年齢を迎えるまで、海の上に出る事を堅く禁じられていました。
 海の上に憧れていた二人は大喜びで、さっそく海を上へ上へと進んで行きます。
 海上に出た二人が最初に見たのは、鮮やかな夕焼けでした。
「わぁ、すっごーい」
 二人は生まれて初めて見た空と太陽の美しさにすっかり感動してしまいました。
 そして夕陽の中に、一隻の船がある事に気づきます。
「姉さん。アレって人間の船なのかな?」
「きっとそうだよ、行ってみようっ!」
 船からは楽しそうな音楽が聴こえており、どうやら宴を開いているようです。
「この船でも何かのパーティーをしているみたいだね」
 人間達が船の中でどんなパーティーをしているのか、二人はとっても興味がありました。
 しかし海面から船上を見る事は出来ず、ただ見上げるばかりです。
 その時、船から一人の男性が海を眺めている事に気づきました。
 艶々とした黒髪に、吸い込まれそうな黒い瞳。そしてとても優しそうな笑顔を浮かべています。
「何てステキな人なんだろう……」
 NANAは彼を一目見た瞬間、心を奪われてしまいました。
 ですが、そんなNANAを七瀬はいさめます。
「姉さん。あの男の人が気になるみたいだけど……彼は人間だよ? そして、僕達は人魚なんだ」
「……うん、解ってる」
 人魚と人間は種族が違うため、決して結ばれない運命にありました。
 NANAは少し悲しそうな笑顔で言います。
「でも、もう少しだけ彼を見つめていさせて。そうしたらあきらめるから……」
 そうしてNANAは、もう一度男の人を見上げました。
 男の人は相変わらず、優しそうな笑みで海を眺めています。
 NANAは彼を見ているだけで幸せいっぱいでした。
 でも、その幸せはすぐ終わってしまいます。
「王子、こんな所にいたんですか」
 男の人の隣に、赤い髪をした女の人がやって来ました。
「美月か。見ろよ、海がキレイだぜ」
「まったく……今回のパーティーの主役は王子なんですよっ!? その主役が宴を離れるだなんて……」
「悪ぃ」
「……はあ。ど〜してこんな馬鹿王子の侍女なんかになっちゃったんだろ」
「そりゃ年齢近いし、幼い頃から城で一緒に暮らしてて相手の事よく知ってるし……」
「はいはい。とにかく早く戻って下さい。姉君様もお待ちですよ」
「お前から振ってきた話題だろうが……ま、姉貴を待たすと後が恐いしな。行くか」
 彼は侍女の美月と一緒に、船の中へと入って行きました。
 NANAは誰もいなくなった船の端を、寂しそうな瞳で見つめていました。
「彼……人間の王子様だったんだね」
「……うん」
「……姉さん、そろそろ帰ろうよ。もうすぐ夜だし、あまり帰りが遅いと温子伯母さんが心配しちゃう」
「……そうだね、帰ろうか」
 二人は船を離れ、再び海に潜ろうとしました。
 でも最後にもう一度夕陽を見ようと思い、西の空を眺めます。
「……アレ? 姉さん……お日様がないよ?」
「おかしいな、まだ沈むには早いのに……」
「あっ! あの黒い雲がお日様を隠してるんだ。きっと、もうすぐ嵐が来るよ」
「嵐が……?」






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