秘密の日記を見ませんか?〜お母さんの場合〜


私は人様に名乗れるほど立派な者ではありません。神崎家当主の妻という人形であり、愚かな母です。
私は今、非常に困惑しています。これは何なのでしょう、本当に七瀬の日記なのでしょうか?
病弱ではありますが、七瀬は真面目で純粋ないい子だと信じていました。
だのにこんな破廉恥な日記を書くだなんて……。
よくよく見てみれば、その原因は姉にあるようにも思えます。
姉さん、いったい七瀬に何を教えたというのですか?
そして萌えとは何なのですか? 看護婦から芽が出るとは、いったい何の事なのですか?
とにかく姉さんに事情を聞かなくては。
……今日も七海の所にいるのでしょうか?
以前、七海が離れから出てしまった事がありましたが、
確か掛け金を忘れてしまったのが原因でしたね。
掛け金のある戸の前までなら、私が行っても問題は無いでしょう。
もちろん夫に知られたら、それだけでもどんなお仕置きを受けるか解りませんが。
姉さん……どうか、納得のいく理由を答えてください。



という訳で神崎家に戻って参りました。
夫に黙って離れに入り、私の胸は緊張で張り裂けてしまいそうです。
すぐ近くに七海がいる。
一目会いたいと願う反面、会わす顔が無いとも思っています。
人は矛盾を抱えた生き物なのですね。
声を出して姉を呼ぼうかとも考えましたが、声が七海に届いてはいけないと思い止まりました。
離れの中を探し回ったのですが、姉の姿は見つかりません。
その内、掛け金のついた襖を発見しました。
私は驚きました、なぜなら掛け金が開いていたのですから。
もしやまた掛け金をかけ忘れた?
この襖の向こうに七海が?
胸中を様々な感情・思考が渦となって駆け巡り、考えのまとまらぬまま、襖に手が伸びました。
ああ――私は取り返しのつかない事をしようとしている。
そう、私は開いてしまったのです。七海を閉じ込めている襖を。

部屋の中にはたくさんのおもちゃや本がありました。
しかし、七海の姿はありません。もちろん、姉の姿も。
いったいどういう事なのでしょう。姉が七海を連れて逃げたとでもいうのでしょうか?
困惑していると、二冊のノートが私の目に入りました。
座卓の上に置かれた二冊のノート。いったい何が書かれているのでしょう?
いけないと思いつつも、私は同じ過ちを繰り返そうとしています。
七瀬の日記を見てしまったように――。
もしやこれも七海の日記なのでは?
予感は――的中してしまいました。
こうして私は、七海の真実を知る事となったのです。



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