2日目
2日目



投稿者:克雪

第1話『昼休みに向けて』



「はぁ、まいった…。」
教室の机に頬杖をつき、大きくため息をつく。
ため息の理由はもちろん、『神崎 七海』だ。
ぼんやりと先生の授業に耳を傾けつつ、昨日の夜のことを
もう一度思い出す。

『なぁNANA、どうして七瀬は編入してきたんだ?
しかも、じょ…女装なんかしてまで…。』
『さぁ?ボクにもわからないよ。』
『そうか…NANAも知らないのか。』
『うん、だってボクもびっくりしたんだもん…まさか女装なんてしてくるとは
夢にも思わなかったからね。』
『俺もNANAが男装してくるとは思わなかったけどな。』
『もうっ…またその話をする〜。ボクが来たのは、慎吾くんに
会いたかったからなんだからねっ。』


と、大体こんな感じだ。
なんにしても、NANAは七瀬が女装してきた理由について、
全然知らないということはわかった。
が、それはつまり、事態が全然進展していないということで…。
「こら橘!!何をボ〜ッとしている!!話を聞いているのか!?」
「は、はい!!すみません!!」
ふぅ、びっくりした…。
あんまり授業中に考えない方がいいな。
「どうしたの?慎吾くん?」
「あ、ああ…なぁNANA、俺、昼休みにでも『七海ちゃん』に会おうと思うんだ。」
「え…?あ、ああ…うん、そうだね。ボクも一緒にいくよ。」
「ああ、そうしてくれ。」
「こら橘っ!!またお前は…!!!」
またしても、先生の怒声が教室中に響き渡る。
さすがに連続して2回怒られるというのはあんまり気分のいいもんじゃないな。
すべては昼休みだ…今は授業に集中していよう。



投稿者:HIDETO

第2話『女子棟潜入大作戦』



〜そして昼休み〜


「さて、どうしたもんかな…」

俺は頭を抱えながら、そう呟いた。

「考えてなかったの?」

追い打ちををかけるように、NANAが言った。

「考えてなかった」

俺は正直に言った。

「どうするの?今日はやめておく?」

NANAが聞いた。

「いや、思い立ったが吉日とも言うしな…」

言葉の使い所が間違ってる気もしたが、問題はそこではない。

「でも早くしないと昼休み終わっちゃうよ?」

その通りだ。

「問題は───」

そう、問題は…

如何にしてこの昼休みの間に女子棟に行き、七海(=七瀬)に会いに行くかと言う事だ。

何せここは鷹宰学園。
うかつに女子棟に忍び込もうものなら、停学はまぬがれない。
なぜ俺はこんな簡単な事にも気付かず『昼休みに会いに行く』などと言ってしまったのか
後悔先に立たず、とはこの事だ。

今回は良い考えが浮かばないと云う事で、またの機会にするべきだろうか?
NANAも半分諦めモードに入っているようだし…

しかし男が1度決めた事をそう簡単に投げ出してしまうのはどうだろう?
NANAの前でそんな情けない事はしたくない…

俺の中で激しい葛藤が生まれていた…

つーか考えるべき事はそんな事じゃない!

ここは一つ、漢らしく初志貫徹で行く事に決めた。
そこで俺はまず、NANAに女装(?)をさせ女子棟に潜入させる作戦を思い立った。
名付けて『彼女の秘密はオトコのコ?』大作戦だ!

こうして俺は、自分の浅はかさと愚かさに後に死ぬほど後悔する事になった…




投稿者:LQ

第3話『NANA女の子化計画(笑』



「というわけで、NANAが女の子の格好をして女子棟まで行って来てくれ。」
「ええっ!?そんな事したらバレちゃうんじゃない…?第一、女子の制服なんてあるの?」

そう。
この作戦の最大のポイントはそこだ。
女子の制服がなければ、この作戦は成り立たない。

「ふっふっふ…、実は、ちゃ〜んとあるんだよなぁ…。」
「え〜っ!?」

そうして俺たちが向かったのは、男子棟の端っこの資料室。
ここは、普段からほとんど誰も使わないということで、鷹宰祭のための大道具などもしまってある。
その中に、今年の鷹宰祭で使用した女装セットが保管してあるのだ。

「ほ〜ら、女子用の制服、あるだろ?」
「そ…そうだけど…。」
「よし、ちょっと着てみなよ。」
「え…ええっ!?」
「サイズ確認のためにさ。俺は外にいるから…。」
「う…うん…。」

そう言って俺はNANAに着替えさせる。
しばらくして、着替え終わったらしく、「終わったよ〜」と呼ぶ声がする。

「サイズは大丈夫か?」
「うん…ちょっと大きい…。」
「よし、んじゃ入るぞ…って。」

女子の制服を着たNANA…かわいい。
普段は男子の制服だし、部屋でも男物の服だから、新鮮な感じでとってもいい。

「NANA…かわいいぜっ!」

俺は理性が飛んでしまい、思わず抱きついてしまう。

「キャッ!?」

NANAは突然の事にめちゃくちゃ驚いたらしく、後ろに避けようとしてバランスを崩してしまう。

「NANA…危ない!!」

と、NANAを押さえようとした俺だったが、NANAと一緒に転んでしまう。
そして、まるで俺がNANAを押し倒したような格好になってしまった。
…そのとき。

「…誰かいるのか?」

と、ドアが開く音が…。




投稿者:克雪

第4話『見事に大失敗(涙)』



「…何をやっているのだ君たちは。」
ドアの開く音ともに現れたのは、なんと意外にも光坊ちゃんだった。
先生じゃなかっただけマシなのか、やっかいなのに見つかったのか…。
「え、えっとだな…これには深いわけが…。」
「…ほどほどにな。」
何を誤解しているのか、そう言い残しきびすを返す光。
そしてドアの向こうへと──
「──ってちょっと待った!!違うんだ、この子は女の子じゃなくて、NANAなんだ!!」
いや、実際NANAなんだが本当は女の子で…
でもこの場合は女の子じゃなくてNANAで…
ああ、ややこしい!!
「とにかく、NANAなんだよ!!」
俺がド迫力で迫るのを、ちょこんと座って見上げてくるNANA。
ああ、可愛いったら…
「む…橘、君の趣味はよくわかったが…やはりほどほどにしておくべきだぞ。
神崎くんも、イヤだったらちゃんと言わないとダメだぞ?」
「え?う、うんわかった。」
「グッ…と、ところで光、なんでここに?」
「君たちがコソコソとここに入っていったんでな。
しかしなるほど、こういうことをしていたのでは、堂々とは入れんな。」
なんてこった、まさかこんなことであらぬ誤解がさらにエスカレートすることになるとは…。
昼休み終了時には、俺はクラス中から『クラスメートに女装させて悦んでる変態さん』
呼ばわりされてしまうんだろうか…?
「…NANA、とりあえず着替えて…教室に戻ろう。」
「?う、うん。」
こうして、俺の『彼女の秘密はオトコのコ?』作戦は大失敗に終わるのだった。
次の作戦…どうしたものか。
今日はもうヤメにするか、それとも放課後か…。



投稿者:SUMI

第5話『一方その頃女子棟では』



賑やかな食堂、その窓際の席。そこに今噂の編入生がいた。
「若菜、あそこで食べよっか」
「うん」
若菜はあたしの思惑に気付かず、無邪気に微笑み返してくる。
あたしは若菜を連れて、己の好奇心を満たすためにターゲットに近付いた。
「ここ、いいかしら?」
その声に振り返った少女は、とても可愛らしい笑顔で答えた。
「どうぞ」
その美少女こそ今回のターゲット、神崎七海。
慎吾のルームメイトの、双子の姉。
そして彼女の向かいに座るのは、学園1の成績を誇る氷の美女、須藤澪。
あたしは七海さんの隣に座り、若菜もあたしの隣に座った。
「あなた、神崎七海さんよね? あの編入試験をほぼ満点で突破するなんてすごいじゃない」
「そ、そんな…」
頬を赤く染めた七海さんは、女のあたしでも見とれてしまうほど可愛らしかった。
「ホント、弟さんとペアで学園1の有名人よ」
「おと…あ、ああ。七瀬も有名なんだ」
「この学園に来る前はどこにいたの? 勉強とかどうやって――」
「あなた、食事をしに来たのか神崎さんを詮索しに来たのか、どっちなのかしら?」
突如、絶対零度の視線と言葉があたしに突き刺さる。
恐る恐る首を回すと、氷の美女にふさわしい須藤さんの顔があった。
「あ、あの、あたしは――」
「だいたい初対面なのにあれこれ訊ねるなんて、相手に失礼でしょう」
うぐっ! つ、冷たい…。
慎吾の奴、よくこんな人とペア組んでたわね。
「ご、ごめんなさい。神崎七瀬君のお姉さんって聞いたから、つい――」
「あなた、NANAさん…七瀬君の事、知っているの?」
NANA? それって確か、慎吾が使う七瀬君の呼び名だったはず。どうして須藤さんが知ってるんだろう?
「あの、七瀬君を知ってるっていうか。あたしの幼馴染みが神崎七瀬君と同室だから、慎吾から…」
「き、君! 慎吾さんの幼馴染みなの!?」
突如、耳元で七海さんが大声を上げた。
周囲の生徒もこちらを振り返っている。
「彼ってどんな人なの!? 優しい人!? 誠実!? 恋人の話とかって聞いた事ない!?」
「あ、えっとぉ、その…とりあえず落ち着いて」
あたしは七海さんをなだめ、彼女を落ち着かせると同時に自分の心も落ち着かせた。
そして彼女が改めて出す慎吾の質問を答えながら、あたしはある事を考えていた。
なぜこんな事になったのか?
学園1の有名人であり、慎吾のルームメイトである神崎七瀬。
その双子の姉まで編入してきたと聞いて、好奇心に駆られて来てみれば…。
それにしても、どうして彼女はこんなに慎吾の事を気にするのだろう?
そりゃ双子の弟のルームメイト、となれば気になって当然だろう。
でも彼女の態度を見ていると、どうもそれだけじゃないような気がする。
…まさか、慎吾に気があるとか。
そんな事を考えながら七海さんの質問に答えていたため、
慎吾をフォローするような答えを考える余裕がなく、つい本音で答えてしまった。
ちなみに、七海さんがどんな質問をしてあたしがどんな答えを返したのか覚えていない。
隣には若菜もいるし、慎吾のイメージを悪くするような事を言っちゃってたらどうしよう。
質問を一通り終えた七海さんは、頭を下げてお礼を言ってきた。

こんな可愛い子に惚れられているかもしれない慎吾。
さらに若菜もほのかに想いを寄せている。
あげくの果てに一部では須藤さんと付き合ってるって噂まである。
…いつからこんなにモテるようになったのよ、あいつは。

ま、七海さんが慎吾に気があるっていうのは、あたしの思い過ごしかもしれないし。
「あの、本当にありがとうございます」
すっかり冷めた昼食を口にしようとした瞬間、七海さんがまたお礼を言ってきた。
「今日の放課後、慎吾さんに会いに行こうと思ってたから…彼の事を聞けて、とても参考になりました」
…これは、まさか、こんな可愛い子が、慎吾に?
あたしの隣で、若菜が青い顔をしていた。



投稿者:LQ

第6話『嵐の前の静けさ』



放課後の男子棟。
「あ〜、今日は散々だったぜ…。」
あれから教室に戻ると、心なしかクラスメイトの距離が遠ざかっているような気がした。
光ぼっちゃんのことだから、昼休みのことは秘密にしておいていざと言うときに脅しのネタにしてくると思ったが…。
まあでも、ばらされるほうがまだ楽…だと思いたい。
「ふう…部活にでも行こうかな?」
「え〜っ?一緒に帰らないのぉ…?」
「あのなぁ…。」
タダでさえヤバイのに、これで一緒に帰ったりしたら
「クラスメートに無理矢理女装させて悦んでる上に、普段は普通を装わせる鬼畜男」にされかねん。
「いや…美月とかに相談してみようと思ってさ。」
「う〜ん…あんまり他の人に言わないほうがいいと思うんだけどなぁ…。」
「それもそうだが…え〜い、しょうがないから一緒に帰るよ!」
もうこうなったらどうにでもなれ、だ。
それに特別授業になれば七瀬にあえるしな。急がなくてもいいか。
そう決めると、今日はさっさとNANAと一緒に帰る事にした…。

一方女子寮。
「慎吾さんは姉さんと同室だったはずだから…姉さんの名前を上手く出せば会わせてもらえるかもしれない…。」
七瀬はそう判断すると、さっさと外に出ようとする。
と、靴箱に手紙が入っていた。
「なんだろう?」
と思ってその手紙を読む。
『明日の放課後、中庭で待ってます』
七瀬はそれを見て動揺してしまう。
「も…もしかしてラブレター!?あ、でも僕ここでは女の子だったっけ…ってことは…ええ〜っ!?」
七瀬は妄想を膨らませつつも、明日行ってみようと決めた。

「――思惑、通りね…。」



投稿者:SUMI

第7話『山積みの問題』



部屋のドアを開けると、須藤さんは机に向かって勉強をしていた。
ボクが帰ってきた事に気づき、少しだけ微笑む。
「おかえりなさい、今日は遅かったわね」
「う、うん。ちょっと、その…考え事をしてたら、遅くなっちゃって」
靴箱に入っていたラブレターのおかげで、ボクが女子寮へ帰り着いたのは門限ギリギリになってからだった。
というか、門限に間に合うよう急ぎ足できたものだから、全身汗でグッショリになっている。
…はぁ。たったアレだけの事でこんなに疲れちゃうなんて、ボクって本当に体力がないなぁ。
「神崎さん、その手に持っている物は何かしら? …手紙?」
「へ? あ、その。これは…」
しまった。
手紙の主は誰だろうとか、明日会ったら何て言おうかとか、手紙を見ながら考えていたから、
つい手に持ったまま部屋に戻ってしまった。
「まさか、ラブレターなんかじゃないでしょうね?」
「ど、どうしてそれをっ!?」
須藤さんに手紙の正体を言い当てられ、ボクはすっかり狼狽してしまう。
「…まさか、本当にラブレターなの?」
「う、うん…」
須藤さんは呆れた顔をして、小さなため息をつく。
「まったく。鷹宰学園は男女交際禁止だというのに…どうしてこういうのが多いのかしら?」
「え? こういうのが多い…って、もしかして」
「私の靴箱にも、たまにラブレターが入っている事があるの」
「そ、そうなんだ…」
「で、どうするの?」
「どうする…って、返事の事? えーと…その、多分断ると思う」
「そう」
手紙をくれた人には悪いけど…ボクは本当は男の子なのだし、付き合う訳にもいかないよね。
ボクは鞄と手紙を自分の机に置いて、額の汗をぬぐう。
今日は疲れちゃったな…早くお風呂に入りたいけれど、この時間じゃあ誰かと鉢合わせになるかもしれないし…。
「神崎さん。汗をかいているみたいだから、早くお風呂に入った方がいいわよ」
「えっ!? あ、うん。そうなんだけど…その」
「私もこれからお風呂に行くから、よかったら一緒に入らない?」
「ええ〜〜〜〜っ!?」
ボ、ボクと須藤さんが一緒にお風呂にっ!?
そんなのダメだよっ! ボクが男の子だって、須藤さんにバレちゃうっ!
それに…それに須藤さんの裸を見ちゃうなんて事になったら…。
須藤さんの…須藤さんの…。
須藤さんの肌、白くてきめ細かくてキレイなんだよなぁ…。
身体もキュッと引き締まっていて、でもとても胸とか大きくてスタイルよくて…。
って、ボクはいったい何を考えているんだぁーっ!?
か、彼女の裸を想像してしまうだなんて、何ていやらしい事を…。
「どうしたの?」
気がつくと、須藤さんはボクの真後ろに立っていた。
振り返ると彼女のキレイな顔がすぐ側にあって、ボクは恥ずかしくなってうつむいてしまう。
と、そこである重大な問題に気づく。
ボクのスカートのある部分が、下から何かに押し上げられている。
その何かとは、つまり、その、ボクの…。
ボクは慌てて手で隠し、冷や汗を流しながら精一杯の笑顔を浮かべる。
「あの、その。私は後で入るから…須藤さんは先に入りなよ」
「でも汗をかいたままだと気持ち悪いでしょう?」
「わ、私…お風呂に入る前にちょっとやりたい事があるから」
「そう? それじゃあ先にお風呂行ってるわね」
そうして須藤さんは浴場へ向かい、ボクは1人部屋に残された。
とりあえず私服に着替えるべく制服のボタンを外しながら、ボクは今抱えている問題の事を考えていた。
慎吾さんと姉さんの事。
ボクが姉さんになりすまして鷹宰学園に来た事。
ラブレターの事。
お風呂の事。
そして疲れ果てているのに、身体の一部分だけが元気になっている事。
…はぁ。問題が山積みだ。



投稿者:LQ

第8話『バレた!?』



…時間にしたら2分程だっただろうか。
でも、その間僕は本当にいろんな事を考えていた。
慎吾さんや姉さんのことやラブレターの事は勿論、これからの生活の事もだ。
いくらなんでも一緒に過ごすには須藤さんは綺麗過ぎる。
これからちょっとした事で「こんな事」になっていては――
「あ〜あ…僕、みっともないな…。」
スカートの下から盛り上がる不自然なふくらみを見てそうつぶやく。
色々考え事をしていたせいか、着替えも非常に遅かった。
「せめて姉さんみたいに僕が男だって知ってる人がいればなぁ…。」
管理人さんに相談しようかとも思った。でも、臨時だって言ってたし、何より危ない雰囲気を漂わせていたので、ちょっと恐かった。
そして、上着を全部脱いだときだった。
「いけない…忘れ物しちゃったわ。」
そう言って入ってきたのは須藤さんだった。
――まさか、こんなに早く戻ってくるなんて!?
僕は一瞬頭がパニクってしまい、脱いだ上着で上半身を隠しつつ、しかし須藤さんのほうを向いてしまった。
「…あら?着替えてるの?」
そう言った須藤さんは…なんとバスタオル1枚。
いくらこの部屋が風呂場に近いからと言って、あの真面目な須藤さんがバスタオル1枚で…?
それよりも、バスタオル1枚であるせいで、須藤さんの体のラインが…。
…それを直視して、体の一部が正常でいられる訳が無い。
「ね…ねえ…あなた…。」
気づけば上半身を隠していた上着も落としてしまい、「男の裸」と「不自然なスカート」をすっかりさらけ出していた。

やばい…バレちゃった…!!



投稿者:SUMI

第9話『明かされる真実』



脱衣所に戻り服を着て、私はすぐルームメイトの待つ部屋に向かった。
ドアを開けると、同様に私服に着替えた神崎七海が、部屋の真ん中で正座をして待っていた。
私は部屋の鍵をしっかりと閉め、彼女…彼の前に腰を下ろす。
静寂がその場を支配していた。
チクタクという時計の音が、やけに大きく聞こえる。
何と切り出せばいいのか解らない。
様々な疑問が脳裏をよぎる。
思い切って口を開き、彼の目を見て言った。
「説明してもらうわよ。どうして男の子のあなたがここにいるのか」
次の瞬間、彼は瞳に涙を浮かべ、床に頭を叩きつけるような勢いで土下座した。
「ご、ごめんなさいっ!」
「あまり大きな声を出さないで。誰かが来たらどうするの?」
冷たく厳しい口調で言い放つと、彼はしゅんとうなだれて、もう1度小さな声で「ごめんなさい」と言った。
まるで捨てられた仔犬のような彼に、つい同情の念を抱いてしまう。
けれど同情するのはまだ早い、少なくとも納得のいく事情を聞くまでは。
「お願いだから、ちゃんと理由を話してくれる? まだ知り合って間もないけど、あなたの性格は解ったつもりよ。
何か理由があって女の子の振りをしていたのでしょう? もしかして、NANAさん…とも関係があるの?」
NANA、という名前に反応し、彼の肩がピクリと跳ねる。
けれど唇を力強く噛み締め、何も語ろうとしない。
…どうしてこんな事になっちゃったんだろう。
ルームメイトが来ると知って最初は不安だったけど、彼女…彼に会って、仲良くなれたらいいのにと思ったのに。
それに橘君のルームメイトの、神崎七瀬君の双子のお姉さんだと知って…………双子?
「あなた…もしかして七瀬君?」
しばらく続いた沈黙の後、彼は小さくうなずいた。
「…そうです。ボクは…神崎七海の双子の弟の、七瀬なんです」
自分で問いかけて、予想どおりの返事だったものの、やはり驚愕を感じずにはいられなかった。
まさかそんな、彼が神崎七瀬だったなんて…。
そしてその真実とともに、ある疑問が新たに生まれた。
「じゃ、じゃあ橘君と一緒に暮らしているのは…」
「…神崎七海。ボクの…姉さんです」
「ちょっと待ってっ! お姉さん…って、どうしてお姉さんが男子寮にいるのっ!? どうして男の子のあなたが…」
「…全て、お話します。姉さんは…最初からボクになりすまして、神崎七瀬として編入したんです」
「そ…それって公文書偽証罪じゃない。それじゃあ、あなたは神崎七海の書類を使ってこの学園に?」
「…その通りです」
な、何て事なの…。それじゃあ橘君は、ずっと女の子と同棲をして暮らしていたっていうの?
そして私は、男の子と一緒の部屋で暮らしていただなんて…。
「ボク…」
七瀬は涙を浮かべた瞳で、私の目をすがるように見つめてくる。
「ボク、どうしても姉さんに会いたかったんですっ! それに、姉さんと一緒に暮らしている慎吾さんにもっ!」
彼の真摯な瞳を見ていると、もう何もかも許してしまいそうになる。
とても純粋で、儚げな彼。
「お願いしますっ! ボクの正体の事は…誰にも言わないでくださいっ!」
「…この事、橘君と…あなたのお姉さんは知っているの?」
「ボクが学園に来た理由までは知らないでしょうけど、ボクが七瀬だという事は知っています」
「そう」
私は深く息を吸い込み、ゆっくりと吐いた。
「解ったは、あなたの事…黙っていて上げる」
「あ、ありがとうございますっ!」
「それと明日、特別授業があるから…その時に橘君とも相談させてもらうわ」
「…はい。ボクも…慎吾さんとは話がしたいですから」
安堵した彼は、あどけない…心の安らぐような笑みを浮かべた。
「この話はまた後でゆっくりしましょう。今日は疲れてるみたいだし、ゆっくり休みなさい」
「は、はい」
「さて。それじゃあ私、お風呂に行くから」
私が立ち上がろうとすると、彼もまた慌てて立ち上がる。
「あ、その。さっきは本当にごめんなさ…わっ!」
ふいに、彼は身体のバランスを崩して前のめりに倒れる。
私は慌てて彼の身体を支え、一緒に倒れてしまう。
「痛っ…」
「ご、ごめんなさい。正座なんかしたの久し振りで、足が痺れ…て…」
突然、彼の動きが固まる。なぜか顔を真っ赤に染めている。そして、その理由に気づく。
彼は私を押し倒す姿勢で上に乗っかり、彼の右手が私の胸に触れていた。
「きゃああああああっ!!」
叫び声とともに、私の手のひらが彼の頬をはたき、パンッと音を立てた。




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