3日目
3日目



投稿者:LQ

第1話『迫り来る刻』



「――あ、おはようございます。」
そういって既に制服(勿論女性用)に着替えた七瀬が挨拶してくる。
「…随分早いのね。」
「あっ…その…食堂、行ってますから着替えてください!」
ああ、そう言うことね…。
私と着替えの時間をずらすために、早起きしたって事ね。
彼はすぐに部屋を出たので、着替える事にした。
それにしても…私も変わったわね…。
昔だったらこんな事になったら絶対管理人に突き出してたのに…。
まあ、今の管理人はいまいち信用できないけれど。
「…やあ、誰が信用できないんだい?」


私はボコボコにした寮の管理人を管理人室に運び込むと、食堂へ向かった。
――私が変わったのは、きっと、あの人のせい…。


「ねえねえ、それで、慎吾はどうだったの?」
そういって僕に聞いてきたのは慎吾さんの幼なじみという佐伯美月さんだ。
今日は昨日一緒にいた樋口若菜さんはいないみたいだ。
どうも鳥の世話のために早く学校に向かったらしい。
「どうって…結局会ってないもの。」
「ふーん…。」
すると、僕の横に須藤さんがやってくる。
須藤さんは席につくなり佐伯さんを睨む。
「ちょっと…また質問攻め?」
「えっ…そんなつもりじゃないけど…。」
そう言いながらも逃げて行くあたり、質問攻めを狙っていたのかもしれない。
すると、須藤さんが小さな声で僕に囁く。
「ヘタに質問攻めにあって、ボロがでたら困るでしょ…。」
そう囁く須藤さんの息が耳にかかって、僕はなんとも言えない不思議な気分になっていた…。


HRで、先生から連絡があった。
「今日の特別授業で、化学選択者は先生の都合で自習となります。」
それを聞いて困った顔をする須藤さん。勿論僕も困っている。
なにせ、どちらにせよ当面の問題としてラブレターの件が残っているのだ。
須藤さんには、「あなたが男ならそのラブレターには意味無いんじゃないの?」と言われたが、
どうしても行かなければ大変な事になるような気がしていた。
――まあ、行っても大変な事になりそうな予感はしていたけど。
「はあ…やっぱり無茶だったかな…?」



投稿者:克雪

第2話『複雑恋愛模様』



「あ〜、極楽極楽。」
化学室の椅子に座り、机を背もたれ代わりにして、俺は自由な時間を満喫している。
先生がいないおかげで、今のこの時間は学校生活唯一のオアシスと化しているのだ。
と言っても、まだ授業が始まってほんの2、3分しか経っていないが。
しかしそれは他の男子たちも同じようで、各々気楽な格好でぼけ〜としている。
「ちょっと男子、何サボってるのよ!?早く準備手伝いなさいよ。
この器具重いんだからね。」
名前も知らない女子が、俺たち男子を一瞥し、実験用器具を指差す。
前回の授業で使った器具を、今回も使うつもりらしい。
「あ、いいよ、ボク──私がやるから。」
そう言って器具の前にしゃがみ込むのは…七瀬、もとい神崎さんだ。
まぁ、あの器具が重いといってもそれは女子にとってだけで、
俺たち男子にしてみれば軽いもんだから、大丈夫だろうけど──
「…ック、お、重い…。」
…そういやあいつ、虚弱体質だったっけ…でも、あれくらい持てると思うんだが。
あ〜あ、顔を真っ赤にしちゃって…。
「あんまり無理しちゃダメよ、神崎さん。」
「須藤さん…だ、大丈夫だから、気にしないで。もう一回──」
NANAに似て負けず嫌いなのか、七瀬はもう一度挑戦する。
あいつ、結構華奢だからなぁ…ちょっと心配になってきた。
「だ、ダメだ…上がらない。」
「ほら、須藤さんの言うとおり無理しない方がいいわよ。
男の子なら軽く持ち上げるんだろうけど、女の子じゃ無理よ。」
「うぐっ!」
「そうそう、こんなのは男に任せとけばいいのよ。男はこういうときしか頼りにならないんだしね〜。」
「はうっ…。」
「ほ、ほら、あんまりそういうこと言うものじゃないわよ。ねぇ、神崎さん。」
他の女子達による精神攻撃に涙目になった七瀬に、澪ちゃんはなぜか優しく接する。
いつの間にこんなに仲良くなったんだ?
「か、可愛い…健気で、一生懸命で、そしてあの潤んだ瞳…。」
「え?」
「橘…僕は、神崎くんのお義兄さんになるかもしれない。
キミにだからこそ言うが、僕はどうやら彼女のことが──」
な、なんですとー!?



投稿者:SUMI

第3話『彼の苦悩』



「何をぼんやりしているの? ちゃんと実験記録を取りなさい」
かつてペアを組んでいた時以来の、懐かしいツッコミ。
澪ちゃんはフラスコ越しに、俺を睨みつけた。
「ゴメン、ちょっと考え事をしててさ…」
「危ないから実験が終わってからにしてちょうだい」
呆れた顔をする澪ちゃんの言う事はもっともなんだけど、そうもいかないだよなぁ。
なんつったって、光が七瀬の事を好きになっちまったんだから…。
光は七瀬に良いところを見せようと、やけに張り切って実験やってるし。
やっぱりこれってマズイよなぁ…。
七瀬の正体を明かす訳にもいかないし、どうすりゃいいんだろ?
何とかして光に七瀬をあきらめてもらわないと…。
「…橘君」
眉をしかめ、不機嫌そうに俺の名を呼ぶ澪ちゃん。
「は、はいっ! 実験に集中します…」
「まったくもう…前回の実験発表の時にはあなたの事を見直したけれど、
これじゃあ評価を改めないといけないわね」
「まったくだ。そんな風だから週末の外出許可を取れなかったりするのだ、少しはボクを見習いたまえ」
なんで光まで俺を責めてんだよ。しかもその言い方、七瀬に自分が優秀だとアピールしたいのか?
ああ…いっそ何もかもぶちまけてしまいたい。
いや、せめて俺の苦悩を理解してくれる人が欲しい…。
「須藤さん。彼だって色々と悩み事だってあるだろうし、そんなにきつく言わなくてもいいんじゃないかな?」
唯一俺を庇護してくれたのは七瀬だった。
その優しさにお礼を言いたいところだが、悩みの種でもあるので素直に感謝出来ない…。
それにいくらルームメイトの言葉とはいえ、あの真面目な澪ちゃんがそう簡単に…。
「…そうね。彼にも…色々と悩みがあるでしょうし、仕方ないかもしれないわね」
…はい?
澪ちゃんって、こんなにも寛容だったっけ?
いや、確かに澪ちゃんは優しい子なんだけど…。でも、いつもと何か雰囲気が違うような。

――憂いを含んだ彼女の瞳は、まるで俺の苦悩を理解しているかのようだった。

って…まさか七瀬の奴、もう澪ちゃんに正体バレちまったんじゃないだろうな?
でもこんなに早く正体がバレるとは思えないし…。澪ちゃん、変なところが鈍いからなぁ…。
自分から正体を明かした?
それはないか。澪ちゃんの真面目っぷりを見れば、とてもそんな真似は出来ないはずだし。
もし七瀬の正体が澪ちゃんに知られたら、どうなっちゃうんだろうなぁ…。
とりあえず今日こそ七瀬とちゃんと話をして、その辺の念も押しておいて…。
そして、神崎七海の振りをしてまで学園に来た理由を聞き出さないと。
放課後、時間空いてるかな? ちょっと訊いてみるか…。
「あの、放課後…時間空いてるかな?」
と言おうとした俺の言葉をさえぎったのは、俺が考えていたセリフを先に言った七瀬だった。
「キミとお話がしたくて…」
答えはもちろんYESだ。
けれど光の嫉妬にギラついた視線を浴びながらそう答えるのは、ちょっと恐かった。



投稿者:克雪

第4話『坊ちゃんからの宣戦布告!?』



「橘…きみはその…彼女とはどういう関係なのかな?」
「いや、どうといわれてもだな」
昼休み。
光に、屋上に呼び出された俺は、いつになく真剣な光と対峙している。
一体、どこをどう間違えて『ここ』に辿り着いたんだろう?
こいつの、嫉妬にギラついた視線を避けつつ、
七瀬と放課後会う約束をしたところ…
あそこの『選択肢』が間違いだったということはおおよそ予想できる。
しかし…あそこで断るわけにもいかなかったからなぁ。
「フッ…その沈黙が答えというわけか。
まぁいい、ぼくも男だ…この際だから言わせてもらおう。
ぼくは必ず七海さんを手に入れてみせる!
もちろん、彼女がキミのことを好いていようとも、
例え両思いだったとしても。
恋愛とは争い奪ってこそ華があるのだからな。
だから、キミと七海さんが放課後こっそり会うのを邪魔させてもらうよ。
伊集院 光の名にかけてね!!」
言いたいことを言い尽くし、人差し指を突きつけてくる。
あの光がここまで熱くなるとは思わなかった…
というか、邪魔してくるだって!?
何とか七瀬と連絡を取って、放課後は会わないようにするしかないか…?



投稿者:SUMI

第5話『廊下を走るべからず』



普段なら授業終了のチャイムが待ち遠しいはずなのに…今日だけは例外だった。
ついに放課後、七瀬と会う約束の時間がやってきた…。
「慎吾く〜ん、一緒に帰ろう」
NANAは無邪気に甘えてくる。
「悪ぃ。放課後…ちょっと人と会う約束があって」
「えっ、誰と会うんだい? まさか…女の子?」
「違う違う、七…海と会うんだよ。色々話さなきゃいけない事があるし。NANAも来るか?」
「ぼ、ボクは……」
返答を渋るNANAは、何だか怯えているように見えた。
う〜ん、そりゃ、双子の弟が自分になりすまして編入して来たんだから…色々思うところがあるのだろう。
ま、NANAも人の事言えないんだけどな。
「NANA、嫌なら無理に来なくてもいいんだぞ? 俺1人で…ちゃんと、話をしてくるから」
「…うん」
小さくうなずいたNANAの頭を撫で、俺は教室を出た。七瀬との待ち合わせ場所を目指して。
廊下を急ぎ足で歩きながら、俺は背後から迫る足音に向けて言い放った。
「おい、廊下は走るな」
「知るか」
返事と同時に、廊下を全力疾走する光が俺を追い越した。
「橘。七海さんの待ち合わせ場所へは、ボクが先にたどり着いてみせるっ!」
体育が嫌いなくせに、光の走行スピードは太陽のそれに匹敵した。
これでは俺も全力で走ったとしても、追い抜けるかどうか…。いや、走らないよりはマシだ。
俺も走ろうと思った瞬間、廊下の角から美しい女性が現れた。
ここは男子棟。こんな所にいる女性といえば、ごく限られている。
「こらっ! 廊下は走らないっ」
さすがの光も、彼女に叱られては立ち止まらざるをえない。
「や、弥生先生…。職員室へ戻ったはずでは?」
「教室に忘れ物をして、取りに戻ってきたところです。伊集院君が廊下を走るだなんて…珍しいわね」
「申し訳ありません。急いでいたもので…」
「何を急いでいたのか知らないけど…。あ、橘君。無関係なフリをして通り過ぎようとしないっ!」
バレたか。光を餌にしてやり過ごそうと思ったんだけど…。あ、待てよ? これはチャンスだよな。
「弥生先生。俺は別に廊下を走ってた訳じゃないぜ。けど急いでるのも事実だから、もう行っていいかな?」
「橘、卑怯だぞ! 弥生先生、叱るなら橘も一緒に…」
「弥生せーんせ。廊下を走ってたのは光だけなんだから、じっくりたーっぷり光だけ叱ってやってください」
と言いながら、俺は弥生先生に歩み寄る。
弥生先生はどうしたものかと困っているようだが、俺を見逃す気は無いらしい。
「でもね、橘君。あなたも…」
「俺は悪くない。悪いのは光だけ…ですよね? じっくり説教してやってくださいよ。お・ば・ちゃん」
と、最後の言葉だけは弥生先生の耳元で、他の誰にも聞こえないよう囁いた。
弥生先生の表情が凍りつく。
「さて、それじゃ俺はもう行きますんで」
「橘っ! 1人だけ逃げようったってそうはいかないぞっ!」
歩き出した俺を捕らえよう伸ばされた光の腕は、逆に弥生先生の手に捕まった。
「伊集院君。ちょっと先生とお話しましょうか」
「弥生先生!? そんな、どうしてボクだけっ!」
「廊下を走っていたのがあなただけだからよ。さあ、こっちへいらっしゃい」
「うううっ…橘ぁぁぁ〜〜〜〜〜〜っ!!」
負け犬の遠吠えを背に受けながら、俺は待ち合わせ場所へと急いだ。
いくら弥生先生とはいえ、廊下を走っていたというだけで光を長時間捕らえる事は無理だろう。
とっとと七瀬と合流して、場所を移動してからじっくり話し合わなければ。



投稿者:りた

第6話『放課後の出会い』



「…行くの?」
「あ…はい、行ってきます」
放課後のチャイムが鳴るとすぐ、須藤さんが僕に小声で話しかけてきた。
「そう…。あなたたちにはあなたたちの事情があるのでしょうけど…
この学校には男女交際禁止という校則があるのだから、気をつけないとね」
「…はい」
すると、須藤さんは僕を見たまま離れようとしない。
「あの…?」
「…あ、ごめんなさい。ちょっと何か忘れているような気がして…」
「…何か?」
「何でもないの。それじゃあ、また後で」
そういうと須藤さんは教室から出て行った。
何か忘れてる…?そういえば、ボクも何か忘れてる気がするけど…。
「まあ、いいか――」
そうつぶやくと、ボクは慎吾さんとの待ち合わせの場所へ向かうことにした。
待ち合わせに指定した場所は…中庭。
須藤さんに相談したところ、そこが一番バレにくいと言うこと。
一応行き方は聞いているので大丈夫だけど…
「…痛っ!!」

廊下の曲がり角で、誰かにぶつかってしまったらしい。
痛みをこらえて起き上がると、目の前には金髪の女生徒が立っていた。
「ちょっと、どこ見て歩いてるのよ!」
「ご、ごめんなさい…」
「もう…気ぃつけや!…ってアンタ…」
その女生徒はボクを見ると、突然嬉しそうな顔になった。
「アンタ、NANAのお姉さん!?」
「…えっ?」



投稿者:克雪

第7話『疑惑』



「いや〜、可愛いなぁ〜。さすがあのNANAのお姉さんや。」
「姉…いや、弟を知ってるの?」
「あったりまえやん。うち、将来NANAのお嫁さんになるつもりやもん。」
え、ええっ!?姉さんのお嫁さん!?
一瞬、教会でキスをする姉さんと、この金髪の女の子─ライムさんっていうらしい─を
想像してしまった。
うわぁ…なんだか華やかで、ちょっといやらしい感じ。
ってそうじゃない!!
「あの…弟、七瀬は普段、どんな感じですか?」
「ん〜…一言で言うと、可愛い!!むっちゃ可愛い!!
ウブで、純真で、無邪気で、抱きしめたくなるくらいや。
っていうかここがこんな学校じゃなかったら…
『あいつ』が邪魔せんかったら体育倉庫に連れ込んで……
あ、いや…なんでもない。」
ライムさんが、少し恥ずかしそうに照れながら俯く。
あはっ、なんだか可愛いや。
「あの、もう一つ。橘 慎吾さんって、ご存知ですか?」
ボクのその言葉を聞いた瞬間、ライムさんの目に炎が燃え盛った…ように見えた。
「橘 慎吾!そいつはロクでもないやつやねん!!
あんな…『ホモ』なんよ。綺麗な男の子に卑猥なことを教えて、
自分と同じ道に連れ込もうとする…ああ、そいつのことを考えるだけで虫唾が走るわ!!」
そんな…姉さんが好きになった人なのに。
その人が、そんな人だなんて、信じられない…。
「そうや、今から一緒に近くの喫茶店に行くか?
なんや、あんたとは馬が合いそうやねん。ほら、早くっ!」
「えっ!?いや、待ち合わせが…」
断ろうとするボクの手を強引に引くライムさん。
ああ、橘さんに会わないといけないのに。
そして、『ホモ』の真偽を確認しなきゃ…。


「へ〜っくしょい!!うう、七瀬のやつ遅いな…。」
弥生先生を脅し、光を蹴落としてたどり着いた中庭。
そこで待つこと1時間半。
さすがに、もう限界だ。
明日…とりあえず、明日にしよう。
「はっ…はっ…は〜っくしょん!!」
風邪…引いちまったかな?



投稿者:SUMI

第8話『夜の訪れ』



思えば、彼女はまさにその名の通りの人間だったのだろう。
氷の美女。
皮肉と賛美の入り混じった名。
決して笑わないのは、心が氷で包まれていたから。
だから必然だったのかもしれない。
冷たい氷を溶かしてくれた人物に心惹かれるのは…。

いつもの席。
あたしと若菜がいつも座る席は、須藤さんと神崎さんの座る席にもなっていた。
今日も若菜と下らない雑談を交わしながら、夕飯を食べていた。
ちなみに須藤さんと神崎さんは、黙々と箸を進めている。何かあったのかな?
さして気にせず若菜との雑談を続け、その中に慎吾の話題が出てきた時の事だった。
「…慎吾さんって、どんな人なのかな?」
と、神崎さんが呟いた。
「何? また慎吾の話聞きたいの? もう話す事なんてあんまり残ってないわよ」
「…うん」
な〜んか、元気無いなぁ。まさか恋煩い…と思ったけど、何か暗い悩み方。
「神崎さん、慎吾の事気にしてんの? まあ、可愛い弟のルームメイトだから気になるのも解るけど」
「…うん」
「あんな馬鹿の事なんかで悩まない。女心とかまったく解らない鈍感な奴だし」
もう少し勘が良ければ、若菜の気持ちにだって気づいてくれるかもしれないのに…。
だいたい、あいつは昔っからハッキリしないところがあるのよねー。見ていて煩わしいっていうか。
もっとしっかりしてくれないと、あたしが苦労するんだから。まったく、あいつは…。
「あいつは、ホント人の気持ちが解らない奴だし、そのくせ図々しいところもあって、
 人の心に土足でヅカヅカ入り込んできたりで…もうっ、いー加減にしろって感じ」
「…そう、ですか」
あ。何か神崎さん、余計暗くなっちゃったような…。
ま、まあ、一応嘘はついてないし、少しくらい慎吾の心象が悪くなったって平気よね?
だってあいつとちょっとつき合えば、あいつの良さが伝わってくるもの。
すっかり意気消沈してしまった神崎さんを尻目に、あたし達は夕食を終えた。
そして就寝するべくそれぞれの部屋に戻る時、ふいに、須藤さんが呟いた。
「…今夜は、寒いわね」
窓の外の、暗い夜空を見上げながら。
「風邪を引いてないかしら…」
それは、誰に対しての言葉だったのだろう?
また少し、神崎さんの表情が曇る。
今日は月も星も見えない夜だった。




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